成尾整形外科病院

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成人脊柱変形術後に起こる合併症を防ぐ!テリパラチドの効果を徹底解説

【成人脊椎変形と骨粗鬆症の危険な関係】

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加齢とともに背骨が曲がってしまう「成人脊椎変形(ASD)」は、高齢者にとって深刻な問題です。

 ASD術後.jpg

この病気の手術には、背骨を金属のネジや棒で支える「矯正固定術」が行われますが、術後に「近位椎間後弯(PJK)」や「近位椎間障害(PJF)」という合併症が起こることがあります。

 

PJKとは、手術した背骨のすぐ上の部分が、異常に前に曲がってしまう状態を指します。さらに悪化すると、骨折や金属のゆるみが起こり、再手術が必要になるPJFへと進行します。

 

このような合併症のリスクを高める最大の要因が、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」です。特に閉経後の女性では、骨密度が低下しているケースが多く、背骨の手術後に骨折や金属のゆるみが起こりやすくなります。

 

では、どうすればこれらの合併症を防ぐことができるのでしょうか?

今回ご紹介する研究では、骨粗鬆症の治療薬である「テリパラチド」と「デノスマブ」の効果を比較し、術後のリスクを減らす方法を探っています。

ASD術後対策.jpg

【研究の概要:テリパラチド vs デノスマブ】

 

この研究は、韓国の大学病院で行われた前向きランダム化比較試験です。

対象となったのは、成人脊椎変形で手術を受ける予定の閉経後女性64名。全員が骨粗鬆症の診断を受けており、術前・術後にそれぞれ3ヶ月間、薬の治療を受けました。

 

テリパラチド群(32名):1日1回、皮下注射(20μg)

デノスマブ群(32名):6ヶ月ごとに皮下注射(60mg)

 

治療後は、両群ともビスホスホネート(一般的な骨粗鬆症治療薬)を継続して服用しました。

 

主な目的は次の2点です。

 

1. 手術後1年以内に起こるPJKとPJFの発生率を比較すること

2. 痛みや生活の質(QOL)など、患者の主観的な改善効果(PRO)を比較すること

 

 

【結果と考察:テリパラチドの有効性が明らかに】

 

 ▶ PJF発生率が大幅に減少

 

結果として、PJKの発生率は両群で有意差なし**(テリパラチド17.2% vs デノスマブ33.3%)でしたが、

PJFの発生率には明確な差がありました。

 

* テリパラチド群:3.4%

* デノスマブ群:22.2%

 

この差は統計的にも有意であり(p=0.034)、テリパラチドがPJFの予防に効果的であることが示されました。

 

PJFは、手術後に再手術が必要になる重大な合併症です。その予防効果が示された意義は非常に大きいといえます。

 

 ▶ 術後の腰痛が大幅に軽減

 

さらに、術後の腰痛スコア(VAS)と生活の質を示すEQ-5Dスコアでも、テリパラチド群がデノスマブ群より良好な結果を示しました。

 

* VASスコアの改善幅:−3.7(テリパラチド)vs −1.6(デノスマブ)

* EQ-5Dスコアの改善幅:+0.33(テリパラチド)vs +0.04(デノスマブ)

 テリパラチド効果.jpg

テリパラチドには、骨折予防だけでなく、骨の微小損傷を修復し痛みを軽減する作用があると考えられており、これらの結果を裏付けています。インプラントの引き抜き強度を増加させるなどインプラント関連合併症の軽減も期待できます。

 

 ▶ 骨密度(BMD)の変化には差なし

 

骨密度の測定では、両群間で大きな差は見られませんでした。

これは、いずれの薬剤も使用期間が短かったこと(6ヶ月)と、BMDの測定部位が腰椎ではなく股関節であったことが影響していると考えられます。

 

▶ 副作用や手術の合併症は少数

 

副作用としては、テリパラチド群で軽度の吐き気や下痢が見られたものの、重大な有害事象は報告されませんでした。

 

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【まとめ:PJFを防ぐならテリパラチドが有望】

 

今回の研究から分かったことをまとめると、以下の通りです。

 

* 成人脊椎変形の手術後、骨粗鬆症を合併する患者ではPJFのリスクが高い

* 骨形成促進薬であるテリパラチドを術前後に使用することで、PJFの発生を大幅に減少

腰痛の改善や生活の質向上にも効果がある

* 一方で、骨密度の変化は薬剤間で大きな差がないため、薬の選択はPJF予防効果を重視すべき

 

今後さらに長期の追跡が行われれば、より確かなエビデンスが得られると期待されます。

 

高齢の脊椎手術では、手術の技術だけでなく、術前からの骨粗鬆症対策が重要です。

 

 【引用文献】

 

Park JH, Kwon O, Choi JH, et al. Perioperative teriparatide for preventing proximal junctional kyphosis and failure in patients with osteoporosis after adult thoracolumbar spinal deformity surgery: a prospective randomized controlled trial*. Osteoporosis International. 2025;36:833-843. doi:10.1007/s00198-025-07449-6

 

 

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