成尾整形外科病院

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成人脊柱変形と仙腸関節痛の関係性:成人脊椎変形の手術で仙腸関節痛が改善するのは本当?

 【仙腸関節痛とは?腰痛の新たな原因に注目】

 仙腸関節症.jpg

「慢性的な腰痛があるけれど、MRIでは異常が見つからない」「治療を続けても痛みが改善しない」----そんな方はいませんか?

 

もしかすると、その腰痛の原因は「仙腸関節(せんちょうかんせつ)」かもしれません。

 

仙腸関節は、背骨の最下部にある「仙骨」と、骨盤の「腸骨」をつなぐ関節です。体の土台ともいえる場所で、日常生活の動きや姿勢の変化による負担を受けやすい構造をしています。

 

近年の研究では、腰痛のうち最大30%が仙腸関節から来ている可能性があるとも言われています。

 

今回ご紹介する研究は、「成人脊椎変形(ASD:Adult Spinal Deformity)」という脊椎の変形疾患をもつ患者において、仙腸関節痛がどのように関与しているのか、そして手術によってどのように変化するのかを明らかにしたものです。

 ASD術前.jpg

 

【成人脊椎変形の患者に見られる仙腸関節痛の実態】

 

この研究では、2019年から2024年にかけて、複数の専門施設で手術を受けた735名の成人脊椎変形患者のデータが解析されました。

 

その結果、次のような事実が明らかになりました。

 

仙腸関節痛が手術前に認められたのは全体の7.2%

* 自覚的に仙腸関節周囲(特にお尻の上の方)に痛みを感じる患者は全体の56%も存在

* しかし、仙腸関節の動きを確かめる「徒手検査」で3つ以上の陽性反応が出た、より正確な「仙腸関節痛」と診断できるのは53名(7.2%)にとどまりました

 

つまり、「なんとなく痛い」と感じている人は多いものの、本当に仙腸関節が痛みの原因となっている人は意外に少ないという結果です。

 

また、仙腸関節痛がある患者には、いくつかの共通点がありました。

 後側弯症.jpg

BMI(肥満指数)が高い

肥満で腰痛.png

痛み止めを使用している割合が高い

腰痛で鎮痛剤.png

全身の健康状態を示す「フレイルスコア」が高い

腰椎の前弯(L4-S1)が少ない

 

ここでいう「前弯が少ない」とは、通常前方にカーブしている腰の骨(腰椎)が、まっすぐまたは後ろに丸くなってしまっている状態のことです。

これは「フラットバック」とも呼ばれ、仙腸関節にかかる力が増える原因となりえます。

 

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 ASD術後.jpg

【仙腸関節痛は手術で改善する?驚きの結果】

 

この研究で特に注目すべき点は、「仙腸関節痛は脊椎の手術で治るのか?」という問いに対する答えです。

 

結論から言うと、92.3%の患者が手術後1年で仙腸関節痛が消失していたのです。

 

これは非常に注目すべき結果です。なぜなら、仙腸関節に対して特別な処置(たとえば関節の固定術など)を行わなくても、脊椎全体のアライメントが整うことで自然と関節への負担が減り、痛みが改善したと考えられるからです。

 

実際、この研究では一部の患者に「仙腸関節固定術(SIJ fusion)」が行われていますが、その有無による効果の差は見られませんでした。

 

つまり、脊椎変形を根本から整える手術によって、結果的に仙腸関節への悪影響も改善された、ということになります。

 

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【まとめ:仙腸関節痛への理解と今後の治療へのヒント】

 

本研究から得られる重要なポイントは、次の3つです。

 

1. 仙腸関節痛は、成人脊椎変形患者でも意外と少ない(7.2%)

2. 肥満やフレイル(虚弱)、腰椎の前弯が少ないことがリスクとなりやすい

3. 手術後には9割以上の患者で仙腸関節痛が自然に改善する

 

仙腸関節痛は、腰痛の中でも診断が難しく、見落とされがちな疾患です。しかし、今回の研究のように、脊椎全体のバランスを整えることで痛みが改善する可能性が高いことが示されました。

 

腰痛に悩む多くの方にとって、「もしかして自分の腰痛も仙腸関節が原因かもしれない」と気づくことが、改善の第一歩になるかもしれません。

 

一方で、診断には経験と専門的な評価が必要です。気になる症状がある方は、整形外科や脊椎専門医に相談してみてください。

 

 

 【参考論文】

 

Turner JD, Rudy RF, Mullin JP, et al.

**Pre-operative Sacroiliac Joint Pain in Adult Spinal Deformity Patients: Incidence, Associated Factors, and Rates of Resolution with Surgery from a Prospective Multicenter Database

Spine (Phila Pa 1976). 2025. DOI:10.1097/BRS.0000000000005520.

 

 

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