成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

元気になるオルソペディック ブログ

【再発腰椎椎間板ヘルニアに新たな選択肢:コンドリアーゼ治療の効果とは】

【腰椎椎間板ヘルニアとは?】

巨大ヘルニアmripg.jpg

腰椎椎間板ヘルニアとは、腰の骨と骨の間にあるクッションのような「椎間板」が飛び出して神経を圧迫し、痛みやしびれを引き起こす病気です。
特に足に放散する痛み(坐骨神経痛)が特徴で、多くの場合は保存的な治療(薬やリハビリ)で改善します。

ヘルニア治療法.jpg

腰椎椎間板ヘルニアの治療法としては、まず保存療法(消炎鎮痛薬や神経ブロック、リハビリなど)があります。
それでも症状が改善しない場合には、内視鏡を使った低侵襲な手術、例えばMED(内視鏡下椎間板摘出術)やFED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)などが行われます。
そして、手術以外でヘルニアを縮小させる、注射による治療「コンドリアーゼ'(商品名ヘルニコア)椎間板内酵素注入療法」が近年注目されています。

 

手術は即効性があり、有効な治療法ですが、残念ながらヘルニアが再発するかたも一定数います。ヘルニアの再発に対する再手術は癒着や椎間関節の切除量が増えることで神経損傷のリスクや、固定術など侵襲の大きな治療法を要することもあります。そのため、手術後に再発してしまうケースでは、再手術に抵抗を感じる方も多いのではないでしょうか。

JSSR幕張.jpg
今回は、そんな再発ヘルニアに対する新たな治療法「椎間板内注入療法」について、第54回 日本脊椎脊髄病学会で当院から発表した「腰椎椎間板ヘルニア再発患者に対する椎間板内酵素注入療法の治療成績」の研究結果をもとにご紹介します。

幕張フォース.jpg

【低侵襲な治療法:コンドリアーゼとは?】

ヘルニコア概要.JPG

コンドリアーゼとは、椎間板の中に注射で投与する酵素の一種です。
この酵素は飛び出した椎間板の成分(主にプロテオグリカン)を分解し、神経の圧迫をやわらげる働きがあります。

手術と比べて体への負担が少ないため、保存療法と手術の中間に位置づけられる治療法として注目されています。
近年では新たな治療選択肢として広がっており、2018年に日本で保険診療として承認されている治療法です。

今回紹介する研究では、過去に腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けたあと、再発してしまった患者さんを対象に、このコンドリアーゼによる椎間板内酵素注入療法がどれだけ効果を示すのかを調べました。

【研究の概要と結果:どのくらい効くのか?】

ヘルニコア患者背景.JPG

この研究は2021年3月から2024年6月の間に行われ、10名の患者さんが対象となりました。
対象の平均年齢は53.3歳、男性6名・女性4名で、ヘルニアの位置は主に腰の下の方(L4/5やL5/S)に集中していました。

治療の効果を調べるため、足の痛みの強さを示す「VAS(Visual Analog Scale)」という指標を使い、治療前、治療2週間後、1ヶ月後、3ヶ月後に測定しました。

下肢痛NRS再発ヘルニア.JPG再発ヘルニアNRS腰痛 .JPG

結果として、治療後2週間で足の痛みは平均で7.2から2.8に大きく改善しました。
1ヶ月後には1.7まで下がり、3ヶ月後も1.9と良好な状態が続いていました。

さらに、「痛みが50%以上改善した」と判断された有効例は、
・2週間後で6例(60%)
・1ヶ月後で8例(80%)
・3ヶ月後でも8例(80%)と、非常に高い割合を示しました。

腰の痛み(腰痛)についても同様に改善が見られ、
・治療前の平均5.8が、
・1ヶ月後には3.3、
・3ヶ月後には2.2まで下がりました。

ただし全員に効果があるわけではなく、2名(20%)は改善が見られず、再手術に移行しました。

再発ヘルニア当院の治療効果報告.JPG

 

【症例】60歳代の女性

再発ヘルニア症例提示.JPG

以前に腰椎椎間板ヘルニアに対して内視鏡下ヘルニア摘出術MEDを受けています。ヘルニアの再発を認め、ヘルニコアを行い、下肢痛、腰痛が改善しました。

【治療の意義と注意点:患者さんにとってのメリットは?】

坐骨神経痛ヘルニア女性.png

この研究結果から、椎間板内注入療法は再発ヘルニアに対しても十分な効果を発揮しうることがわかりました。
しかも、手術に比べて体への負担が少ない「低侵襲」な治療であることも、大きな魅力です。

再発したヘルニアに対して、「もう一度手術するのは不安」という方にとって、この治療法は有力な選択肢となるでしょう。

ただし、全ての方に効くわけではなく、効果がない場合にはやはり再手術が必要になるケースもあります。
また、椎間板の構造に変化を与える治療であるため、将来的な変性リスクについては主治医としっかり相談することが大切です。

現在では、多くの病院でこの治療が行われるようになっていますが、実際に受ける際には専門医と相談し、治療の適応があるかどうかを判断してもらいましょう。

【まとめ】

・腰椎椎間板ヘルニアの再発例に対して、椎間板内注入療法は有望な選択肢です。
・治療後の痛みの改善率は非常に高く、低侵襲である点が大きな利点です。
・全例に効果があるわけではないため、個々の症状に応じた判断が重要です。

腰の痛みや足のしびれに悩む方にとって、新たな希望となるこの治療。
「切らずに治せる可能性」に、ぜひ目を向けてみてはいかがでしょうか。


参考第54回 日本脊椎脊髄病学会の発表より


「腰椎椎間板ヘルニア再発患者に対するコンドリアーゼ椎間板内酵素注入療法の治療成績」

 

免責事項

  • 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
  • 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
  • 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
  • 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
  • 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。

当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。