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頸椎ペディクルスクリューの新時代!3Dテンプレートで患者ごとにカスタムされた安全なスクリュー固定法とは?
【頸椎手術の精度が劇的に向上!3Dテンプレートを用いた新技術の実力とは】
頸椎後縦靭帯骨化症(OPLL)のうち、「K-lineマイナス」と呼ばれる骨化の占拠率が50%以上でアライメントが後弯になっている非常に脊髄の圧迫が強いタイプや、頚椎症性脊髄症で首が後ろに曲がってしまう「後弯症例」では、通常の除圧手術(椎弓形成術など神経の圧迫を取り除く手術)だけでは効果が不十分であることが分かっています。これらのケースでは、脊髄の圧迫を解除するだけでなく、椎骨を固定して安定させる「後方除圧固定術」が必要とされます。特にK-lineマイナスでは、骨化が強く神経の後方への移動が困難なため、除圧のみでは神経症状の改善が不十分になる可能性があります。
頸椎後方固定術では外側塊スクリューや椎弓根スクリューを用いて安定化させます。
椎骨の椎弓根の外側には椎骨動脈、内側には脊髄が走行しており椎弓根スクリューが外側に逸脱した場合、椎骨動脈を損傷し、大量出血や脳梗塞などの重篤な合併症を引き起こすおそれがあります。そのため、極めて高い正確性が求められ、整形外科や脊椎外科の分野では、手術精度の向上と合併症の低減が大きな課題となっています。とくに、首の骨(頸椎)にスクリューを正確に挿入する「頸椎ペディクルスクリュー(CPS)」の技術は、患者の安全に直結する重要な技術です。
そこで登場したのが、患者一人ひとりの術前のCTから骨の形に合わせて作られる「3Dテンプレートガイド」です。本記事では、この新技術の効果と安全性、そして手術の課題とその解決策について、3つの観点からわかりやすくご紹介します。
【1. CPS挿入の精度が飛躍的に向上:3Dテンプレートの効果とは】
CPSは、頸椎の安定性を高めるために挿入されるスクリューで、従来は術者の経験と感覚に頼る「フリーハンド法」が一般的でした。しかし、この方法では神経や血管への損傷リスクが高く、スクリューが骨から外れる「穿孔(せんこう)」が起きやすいという問題がありました。
最新の研究によると、3Dテンプレートガイドを使用することで、この穿孔率が大幅に低下しました。437本のスクリュー中、99.5%が臨床的に安全とされる位置に正確に挿入されており、重度の穿孔はわずか0.5%にとどまりました。また、別の研究では、115本中107本(93.1%)が完全に骨の中に収まり、残りも軽度な穿孔のみで、神経や血管への損傷は一切報告されていません。
【2. 穿孔のリスク要因とは?:患者の体格や術者の経験も影響】
どれほど優れた技術を使っても、一定のリスクは存在します。研究では、穿孔のリスクが高い要因として以下が挙げられています。
- 身長が低い、体重が軽い、BMIが低い
- 女性であること
- 骨の中でもスクリューが通る「ペディクル」の幅が狭い
これらの要因は、骨自体のサイズが小さくなることや、操作の難しさを高めるため、注意が必要です。とくにC4の椎骨では解剖学的に難易度が高く、穿孔率が最も高かったことから、この部位への挿入は慎重に行う必要があります。
【3. 3Dテンプレートのメリットと課題:今後の展望】
3Dテンプレートの最大のメリットは、術前のCT画像をもとに、患者ごとの骨形状にピッタリ合うガイドが作成される点です。これにより、術中のスクリュー挿入方向や深さを高精度で誘導できます。さらに、術中にテンプレートを骨にしっかりと固定することで、骨のズレや術野の変化にも対応できる柔軟性があります。
ただし、課題もあります。テンプレートの作成には術前の計画と3Dプリントに7〜10日かかり、緊急手術には適していません。また、骨の表面をきれいに露出させないとテンプレートがずれてしまい、精度が落ちるリスクがあります。
最近では、片側だけに装着する「モノラテラル(片側)テンプレート」も登場し、手術中の筋肉の引きはがしを最小限にする工夫も進んでいます。これにより、より低侵襲かつ安全な手術が期待されています。
【まとめ】
患者ごとの骨に合わせて作られる3Dテンプレートガイドは、CPS挿入の精度と安全性を飛躍的に向上させる画期的な技術です。体格や骨の形、術者の経験によってはリスクもありますが、慎重な術前計画と適切な手技により、これらのリスクを最小限に抑えることが可能です。
さらに、頸椎OPLLのK-lineマイナスや後弯例といった非常に脊髄障害が強い病態においては、より適切な手術法の選択が不可欠です。後方除圧固定術は、これらの患者に対して良好な成績を示しており、安全で効果的な選択肢の一つといえるでしょう。
この技術の普及により、頸椎手術はますます安全で信頼性の高いものになると考えられます。整形外科や脊椎外科の分野で期待されるこの進化を、今後も注目していきたいと思います。
【参考論文】
- Fukushima A, et al. "Accuracy of cervical pedicle screw placement using a patient-specific template guide system and risk factor analysis for screw perforation: CT-based evaluation of 437 screws." European Spine Journal, 2025.
- Marengo N, et al. "Cervical pedicle screw placement with patient-specific 3D-printed guides: accuracy and safety in a clinical experience." European Spine Journal, 2025.
- Nagoshi N, et al. "Comparison of Surgical Outcomes of Anterior and Posterior Fusion Surgeries for K-line (−) Cervical Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament." Spine. 2023.
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