成尾整形外科病院

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股関節骨折後の高齢者は1日22時間も座っている?最新研究で判明したリハビリの課題とは

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# 【高齢者の股関節骨折後に注意すべき「座りすぎ」問題とは】

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高齢者に多く見られる「股関節骨折」は、転倒などをきっかけに起こり、手術を受けた後に入院リハビリが必要になります。ところが、手術後すぐの時期に「座ってばかりいる時間」が極端に長いという事実が、最新の研究で明らかになりました。

 

今回ご紹介する研究では、平均年齢86.5歳の高齢患者30名を対象に、股関節骨折手術の翌日から3日間、1日の活動量を客観的に測定しました。その結果、1日あたり約1364分、つまり1日の94.7%もの時間を「座って過ごしていた」ことが分かりました。

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これは、同年代の元気な高齢者が1日の約60%を座って過ごしているという報告と比べて、極めて長時間であることが分かります。

 

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# 【わずか2.6%の差が"有意差"になる理由】

 

この研究では、認知機能の状態によって「座りすぎ」に差が出るかを詳しく分析しました。参加者はMMSEという検査を用いて、認知機能があるグループ(MMSEスコア24点以上)と、認知機能が低下しているグループ(23点以下)に分けられました。

 

その結果、1日あたりの座っていた割合は次のようになりました。

 

* 認知機能が低下している人:96.4%

* 認知機能が保たれている人:93.8%

 

この差は2.6%です。数字だけを見ると小さな差に思えるかもしれません。しかし、1日1440分のうちの2.6%は約37分に相当します。つまり、認知機能が低下している人は、1日で約37分も余計に座っていたのです。これが3日続けば、約111分、つまりほぼ2時間に達します。

 

さらに重要なのは、この差が「統計的に有意差あり」と判断されたことです。研究ではマン=ホイットニーU検定という手法で分析が行われ、P値は0.029でした。これは「偶然のばらつきでは説明できない差」であり、実際に認知機能の違いによって座り時間が変わっている可能性が高いことを意味します。

 

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# 【リハビリ中でも座っている?活動量の実態とは】

 

手術の翌日から始まるリハビリでは、1日あたりおよそ116分の理学療法・作業療法が実施されていました。しかしそのうち約93分は、座ったままの時間だったのです。

 

つまり、実際に「身体を動かしていた」のは23分ほどしかありませんでした。

 

特に、認知機能が低下している人では、リハビリ中の座位割合が84.5%で、認知機能が正常な人の72.3%よりも明らかに高くなっていました。

 

これは、指示の理解が難しい、自発的に動かないなど、認知症に伴う行動傾向が関係していると考えられます。

 

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# 【まとめ:小さな差でも見逃せない大きな影響】

 

股関節骨折後の患者が、手術後すぐの時期にほとんど座って過ごしているという事実は、筋力低下や回復の遅れにつながる大きな問題です。

 

今回の研究では、認知機能の違いによって1日あたり37分の座り時間の差があることが判明しました。この差は統計的にも有意であり、たとえわずかに見える差でも、3日間で積み重なれば身体機能の回復や生活自立度に大きな影響を及ぼします。

 

以下の3点が今後の課題です。

 

1. リハビリ以外の時間をどう活用するか

2. 認知症患者に対して個別的な支援体制を整えること

3. 活動量の定量的な評価と行動観察の併用

 

患者本人の回復を助けるためには、医療スタッフ、介護者、家族が一体となって「座りすぎを減らす環境づくり」に取り組むことが求められます。

 

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# 引用論文

 

Toriyama T, Fukutani T, Sakurai T, et al. Characteristics of Early Postoperative Sedentary Time in Patients with Hip Fractures. Progress in Rehabilitation Medicine. 2025;10:20250014. doi:10.2490/prm.20250014

 

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