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75歳以上でも手術は有効?特定疾患、頸椎後縦靱帯骨化症の治療成績を徹底解説!
高齢者の首の骨の病気、手術でどこまで回復する?大規模研究が明かす意外な事実
日本を含む多くの先進国では、高齢化が急速に進んでいます。
そんな中、高齢者に増える首の病気の一つが「後縦靱帯骨化症(OPLL)」です。
これは、首の背骨を支える「後縦靱帯(こうじゅうじんたい)」が骨のように硬くなり、脊髄(せきずい)を圧迫してしまう病気です。
この圧迫が進行すると、手足のしびれや歩行障害、排尿トラブルなど、日常生活に深刻な影響を与えます。
今回ご紹介するのは、日本全国28施設で行われた大規模な前向き研究です。
75歳以上の高齢者でも手術は本当に有効なのか?という疑問に、科学的に答えを出した貴重なデータです。
【後縦靱帯骨化症とは?高齢者に多いその正体と背景】
後縦靱帯骨化症(OPLL)は、頚椎(けいつい=首の背骨)の中にある靱帯が徐々に骨のように固くなり、神経を圧迫してしまう病気です。
この圧迫によって、脊髄の働きが低下し、主に次のような症状が現れます。
- 手足のしびれ
- ボタンがかけづらい、箸が持ちにくいなどの細かい動作障害
歩行がふらつく
- 尿が出にくい、あるいは漏れる など
この病気は40代以降の男性に多く、年齢とともに進行する傾向があります。
近年では高齢者の発症が増加しており、75歳以上での手術例も少なくありません。
しかし、「高齢だから手術しても回復しないのでは?」という不安を持つ患者さんやご家族も多く、医学的な根拠をもとにした判断が求められてきました。
【75歳以上でも手術の効果はある?術後の回復を徹底検証】
この研究では、2014〜2017年にかけてOPLLの手術を受けた患者402名(うち79名が75歳以上)を対象に、術前・術後2年間の経過を詳細に追跡しました。
用いられた評価指標は以下の通りです。
- JOAスコア:脊髄機能を評価する日本整形外科学会の指標(0〜17点で高いほど良い)
- VASスコア:痛みやしびれの程度を100点満点で評価
- JOACMEQ:日常生活の質や手足・排尿機能などを患者自身が評価するアンケート形式の指標
主な結果は次の通りです。
- 高齢者は手術前のJOAスコアが低く(平均9.6点)、術後も非高齢者よりやや低い(平均12.3点)
- しかし、改善幅(改善度)はほぼ同じで、どちらも「臨床的に意味のある改善(MCID)」を達成
- 痛みの改善(VAS)や手術による合併症の頻度にも年齢による有意差はなし
つまり、年齢にかかわらず、神経機能の改善は十分期待できるという心強い結果でした。
ただし一点だけ、重要な注意点もあります。それは、腕や手の細かい動き(上肢機能)の改善が高齢者では限定的だったという点です。
この理由として、以下のような加齢変化が考えられています。
- 脊髄の中心部(上肢を支配する領域)が加齢により脆弱になる
- OPLLによる圧迫がこの中心部を直撃しやすい
- 他にも股関節や膝の関節症、糖尿病による神経障害などが合併しやすい
そのため、歩行などの機能は改善しても、手先の器用さまでは回復が難しい場合があるということを、手術前にしっかり理解しておく必要があります。
【OPLLの代表的な手術法:どのように神経の圧迫を取るのか?】
OPLLの治療では、まず薬やリハビリなど保存療法が試されますが、症状が進行して日常生活に支障が出てきた場合には手術が検討されます。
この病気の手術は、「神経の圧迫をどうやって取り除くか?」に注目して、主に以下の3つの術式が使われます。
◉ 椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)
- 背中側(後方)から脊柱管を広げて、神経の通り道を作る
- 体への負担が比較的少なく、高齢者にも多く選ばれる
- 骨化が前方に大きく張り出している場合は不適(Kラインマイナス症例)
この研究でも、全体の約6割がこの術式で手術を受けており、高齢者でも多く使われていました。
◉ 前方除圧固定術(ぜんぽうじょあつこていじゅつ)
- 首の前側からアプローチし、骨化した靱帯を直接取り除く
- 圧迫の原因の骨化を根本から解決できる反面、リスクも高め
- 嚥下障害(えんげしょうがい)や出血など注意が必要
◉ 後方固定術(こうほうこていじゅつ)
- ネジ(スクリュー)や金属の棒(ロッド)で骨を固定
- 首の骨が大きく曲がっていたり(後弯)、靭帯骨化が大きい(占拠率が高い)場合に有効
- Kラインマイナス症例https://naruoseikei.com/blog/2025/03/opll-kline2.html
術式の選択は、神経の圧迫の場所や範囲、首の骨の形、患者さんの体力や持病などを総合的に判断して決められます。
【手術前に知っておきたいポイント:期待と現実のバランス】
高齢の患者さんにとって、手術という選択は勇気がいるものです。
今回の研究は、「高齢でも手術の効果が期待できる」という明るい希望をもたらしましたが、同時に過度な期待を持ちすぎないことも大切です。
手術前に以下のポイントを医師としっかり確認しておくことをおすすめします。
- 手術によって歩行や排尿などの機能は改善が期待できる
- 一方で、手や指の器用な動きは回復しにくい可能性がある
- 手術そのものの安全性は年齢による大きな差はない
- 糖尿病などの持病は、回復に影響を与えることがあるため、血糖管理が重要
特に糖尿病は、OPLL患者の中で30%以上の高率で見られ、脊髄の血流や神経の回復力に悪影響を及ぼす可能性があります。
術前から血糖コントロールをしっかり行うことで、より良い結果が期待できます。
おわりに:医師と相談しながら「年齢に左右されない治療」を
後縦靱帯骨化症は、放っておくと進行し、歩けなくなったり、排尿が困難になる恐れのある病気です。
今回の研究により、「75歳以上の高齢者でも手術によって神経の回復は十分見込める」という事実が明らかになりました。
ただし、手先の細かな動作など一部の機能は回復しづらい場合もあるため、手術に対する期待と現実をしっかり理解しておくことが重要です。
治療法の選択においては、年齢だけを理由に諦めず、信頼できる整形外科専門医・脊椎外科医と丁寧に相談することをおすすめします。
それが、より質の高い人生を取り戻す第一歩となるでしょう。
引用論文
Nagoshi N, Egawa S, Sakai K, et al. Does Advanced Age Negatively Impact Treatment Outcomes of Cervical Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament? A Prospective Multicenter Study. Spine. Published online 2025. DOI:10.1097/BRS.0000000000005415.
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