成尾整形外科病院

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思春期特発性側弯症の治療法比較:手術と保存療法、どちらがQOLを改善する?

 

 

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【手術と保存療法の違いとは?思春期特発性側弯症における治療効果の比較】

思春期特発性側弯症(AIS)は、成長期の子どもに発症する背骨の3次元的な側方への曲がりです。多くは軽度で経過観察で済みますが、ある程度以上に進行すると、手術を含む積極的な治療が検討されます。今回紹介する研究では、手術を受けた患者と手術をせず保存療法(経過観察や運動療法)で過ごした患者の2年間の経過を比較しています。

【健康関連QOLを比較:手術が心身に与える影響】

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研究では、側弯の程度が手術適応範囲にある90人の非手術患者と、689人の手術患者を比較しました。使用された指標は、SRS-22という側弯症特有のQOL(生活の質)評価アンケートで、痛み、機能、自尊心、精神的健康、満足度の5つの項目からなります。

結果は明確でした。手術を受けた患者は、曲がり具合の改善に加え、自尊心や精神的健康、治療への満足度などで、非手術群よりも大きな改善がみられました。特に、「自分の見た目に対する満足感」が大きく向上しており、外見への悩みが軽減されたことが示されています。

一方、保存療法を選択した患者では、QOLの項目に大きな改善は見られず、一部では痛みや精神的な健康においてむしろ悪化する傾向も確認されました。これらの結果は、側弯症に対する手術の心理的・身体的な利益を示す重要な指標といえるでしょう。

【レントゲン上の改善度:手術による曲がりの矯正効果】

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手術を受けたグループでは、平均50度あった側弯が手術後には約19度まで改善されました。これに対し、保存療法を選んだグループでは、同じく平均50度程度の側弯が、2年後にはほぼそのまま、もしくはわずかに悪化していました。

側弯症の手術の目的は、将来的な進行を防ぎ、背骨のバランスを整えることにあります。その観点からも、手術には高い効果が期待できるといえるでしょう。また、手術による形態的な改善が、患者自身の自信や満足感にもつながっていることが、今回のQOL評価からも読み取れます。

【治療の選択と今後の課題:安全性と長期効果のバランス】

もちろん、手術にはリスクも伴います。今回の研究では、手術を受けた患者のうち8.9%が何らかの合併症を経験し、5.8%は再手術が必要となっています。合併症には、スクリューのゆるみ、感染、神経症状などが含まれますが、大多数は適切な処置により改善しています。

また、今回の研究の追跡期間は2年間と比較的短く、長期的な結果については今後の検証が必要です。しかし、現時点で手術群が保存療法群に比べて明らかに良好なQOLスコアを示していることは、治療選択において重要な判断材料となるでしょう。

特に、外見や精神的な健康に悩む患者にとっては、手術が人生の質を大きく向上させる選択肢となる可能性があります。一方で、症状が軽度で外見や痛みに悩みが少ない患者にとっては、保存療法という選択肢も引き続き有効です。

最終的には、患者自身と家族、医師が一緒に話し合いながら、リスクとベネフィットを丁寧に比較して治療方針を決めることが大切です。


【参考論文】
Whitaker CM, Miyanji F, Samdani AF, et al. Prospectively Collected Comparison of Outcomes Between Surgically and Conservatively Treated Patients With Adolescent Idiopathic Scoliosis. Spine 2024;49:1210-1218.

 

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