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腰椎固定術の落とし穴?スクリュー位置が隣接椎間板変性に与える影響とは
【椎弓根スクリューの位置と隣接椎間板変性の関係】
腰椎固定術は、腰痛や脊椎の不安定性に対する有効な手術ですが、その後に新たな問題が発生することがあります。それが「隣接椎間板変性(ASD)」です。この記事では、南米の病院で行われた平均6年の追跡調査を基に、椎弓根スクリューの位置とASDの関連について解説します。
【ASDとは何か?腰椎固定術のリスクを正しく理解しよう】
ASDとは、固定した部分のすぐ上や下にある椎間板が時間とともにすり減ったり変形したりする状態です。症状が出ない場合は「変性(degeneration)」と呼ばれ、痛みやしびれなどの症状を伴う場合は「疾患(disease)」と区別されます。
ASDの発症率は5〜49%と報告されており、その発症により再手術が必要になるケースもあります。なぜこのような変化が起こるのでしょうか?その一因として、スクリューの入れ方が注目されています。
【スクリューの向きと深さがカギ:変性リスクに影響】
この研究では、55歳以上で腰椎固定術を受けた48人を対象に、術後6年間のレントゲンとMRI画像を詳細に分析しました。調査のポイントは、次の2つのスクリューの位置指標です。
1. **スクリュー先端と椎体上端板までの距離(PS tip-VE distance)**
2. **スクリューの角度(PS-VE angle)**
Figure 1
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(A):L2-S1固定術後のX線で、スクリュー軸と上椎体終板との角度(PS-VE angle)を測定。例では15.08°。
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(B):スクリュー先端と終板までの距離(PS tip-VE distance)をFIV高で割った割合で表現。例では7.88%。
目的:スクリューの向きと位置がASDとどう関係するか定量化。
これらは、術後すぐの画像で測定され、ASDとの関係が解析されました。その結果、以下のような傾向が明らかになりました。
* スクリュー先端が椎体上端板に近いほど、ASDの進行が早い。
* スクリューの角度が上方(頭側)に傾いているほど、椎間板のすり減りや脊柱管の狭窄が進行しやすい。
では、なぜこのような配置がASDを引き起こすのでしょうか?
理由の一つは「力学的要因」です。スクリューが頭側に傾いていると、軸方向の力がスクリュー先端に集中しやすくなり、その結果、椎体の上端板に負荷がかかりやすくなります。これにより骨の硬化(硬くなる現象)が起き、隣接椎間板の栄養が阻害されて変性が進むと考えられています。
もう一つは「血流障害による栄養不良」です。スクリューが椎体の上端板に近すぎると、椎間板に栄養を送る細かな血管網を傷つけてしまう可能性があります。椎間板は血管のない組織のため、周囲からの拡散によって栄養を得ていますが、この経路が阻害されると変性が進行しやすくなるのです。
つまり、「スクリューが上向きで深く刺さっている」と、隣接する椎間板に悪影響を与える可能性があるのです。
【安全なスクリュー配置とは?臨床に活かすべき数値】
この研究では、ASDの進行を防ぐ「安全域」も提案されています。具体的には次の数値が示されました。
スクリュー先端と上端板との距離が椎体高の36%以上
スクリューの角度が9.5度以下
これらの条件を満たしていれば、ASDの進行リスクが低くなると報告されています。つまり、スクリューを深く刺しすぎたり、上向きに入れすぎたりしないようにすることが重要です。
この知見は、術後の合併症を減らすだけでなく、長期的な患者のQOL(生活の質)を保つためにも役立ちます。
【まとめ:術後の合併症を防ぐには?】
腰椎固定術において、スクリューの位置がASDの発症に大きく関わることが、今回の研究で明らかになりました。とくに、スクリューの深さや角度が不適切な場合、周囲の椎間板への負担が増し、早期に変性が進んでしまう可能性があります。
手術を受ける患者さんや、そのご家族にとっては、術後のリスクについて正しく理解し、術者がどのようにスクリューを配置するかという点にも関心を持つことが大切です。
今後も、より安全で長期的に満足度の高い手術のために、このようなエビデンスをもとにした手技の改善が求められます。
【参考論文】
Latallade V, Pereira Duarte M, Huespe IA, et al. Does Position of Pedicle Screws Correlate With Adjacent Segment Degeneration? An Average 6-Year Follow-Up Retrospective Study. *Global Spine Journal*. 2025;15(5):2699-2707. [https://doi.org/10.1177/21925682241309295](https://doi.org/10.1177/21925682241309295)
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