成尾整形外科病院

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. 骨粗鬆症の脊椎固定術に革命!セメント強化スクリューの固定力と安全性とは?

 

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【フェネストレイテッドスクリューとは?骨粗鬆症患者への新しい選択肢】

 

高齢化が進む現在、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折や変性疾患の手術件数は年々増加しています。とくに骨がもろくなっている高齢患者さんでは、従来のスクリューだけでは固定力が不足し、手術後に緩んだり、再手術が必要になったりするケースも少なくありません。

 

こうした中で注目されているのが「フェネストレイテッドスクリュー(fenestrated screw)」です。これはスクリューの中に小さな穴(fenestration)が空いており、そこから医療用の骨セメント(PMMA)を注入することで、骨の中でセメントが広がり、スクリューと骨の固定力を飛躍的に高めることができます。骨粗鬆症のスカスカの脆弱した椎体に対しても有効性が国内外で報告されています。

骨粗しょう症3種の神器.JPG

骨粗鬆症の手術に有用なLIF、BKPとfenestrated Screwを3種の神器と呼んでます。これらのインプラントがないと脆弱な骨を固定することは困難です。

 

2023年12月からFenestred Screwの使用を開始しており、使用経験と合併症対策について講演を依頼され福岡で講演してきました。今回は講演内容を一般の人にもわかりやすいように解説し、ブログ記事にしております。

 

【症例】骨密度が著しく低い重症骨粗鬆症の患者さんの破裂骨折に対して椎体置換術と通常の椎弓根スクリューで固定を行いましたが、すぐにスクリューが緩みました。フェネストレイテッドスクリューに入れ替えることで、再手術後スクリューが緩まずに安定した固定を維持でき腰痛も改善しました。

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 Xcore再手術後.JPG

特に有用だった症例として以下が挙げられます。

 破裂骨折症例1.JPG破裂骨折BKPとLIF.JPG

* 破裂骨折型の椎体骨折

* DISH(びまん性特発性骨化症)に起因する隣接椎体骨折

* 多椎間狭窄や後側弯症を伴う変性側弯症

 

これらのケースでは、従来のスクリュー固定のみでは安定性が不十分であったのに対し、フェネストレイテッドスクリューによって明確な効果が得られました。

 

【セメント関連合併症とそのリスク管理】

 破裂骨折術後CT.JPG

ただし、骨セメントを体内に注入することには当然リスクもあります。代表的なものが「セメントリーク(CL: Cement Leakage)」と「肺セメント塞栓症(PCE: Pulmonary Cement Embolism)」です。

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当院では、2023年12月から2025年4月までにフェネストレイテッドスクリューを用いた17例、計71本のスクリューのうち、術後CTで評価可能な13例(59本)に対し詳細な分析を行いました。その結果、CLは12本(20.3%)に確認されましたが、幸いにも症候性PCEや神経障害などの重大な合併症は発生していません。

 セメント漏出結果.JPG

CLのタイプ別内訳は以下の通りです。

 

* Type S(静脈経由の漏出):8本

* Type B(椎体内静脈系から脊柱管への漏出):2本

* Type I(皮質破綻による軟部組織への漏出):2本

 

これらの漏出タイプは、漏出先やリスクに応じて分類されています。Type Sは肺塞栓などの全身合併症、Type Bは神経障害を引き起こす可能性があります。

 

【合併症を防ぐための手技的工夫】

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フェネストレイテッドスクリューを安全に使用するためには、手術中の細やかな工夫が欠かせません。当院での取り組みを基に、合併症を防ぐためのポイントをご紹介します。

 

 ① セメントの粘度管理

 

セメントの粘度(ねばりけ)は漏出リスクを大きく左右します。サラサラした状態で注入を始めると、静脈や椎体の隙間に流れ込みやすく、漏出の原因となります。

 

最適なタイミングは「セメントがピッグテール状になり、指につかない」程度の粘稠度です。この状態になってから注入を開始することが安全性を高める鍵です。

 

 ② 低圧注入の徹底

 

注入圧が高すぎると、セメントが勢いよく流れ込み、椎体外に漏れ出す危険が高まります。ゆっくりとした低圧注入を基本とし、力をかけすぎないことが重要です。

 

 ③ セメント量は最小限にとどめる

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骨の強度向上には、必要以上のセメント量は不要です。1スクリューあたり1.0〜1.5mlが目安とされており、それ以上注入しても固定力はそれほど向上しないことが生体力学研究からも示されています。

 

むしろ、過剰なセメントは漏出リスクを高めるため、「必要最小限」が原則です。

 

 ④ 右側スクリューでの注入に注意

 

解剖学的に、椎体の右側に下大静脈が走行しており、右側の椎体は静脈まで近く、還流が早いため、セメントが静脈に流入しやすいとされています。そのため、右側に注入する際は特に慎重に行う必要があります。

 

⑤ 麻酔中の静脈圧コントロール

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静脈圧が低下するとセメントが静脈内に逆流しやすくなります。手術中の麻酔管理では、呼気終末陽圧(PEEP)を15cmH₂O程度に設定することで静脈還流を抑制し、CLリスクを軽減することができます。

 

これらの工夫を組み合わせることで、セメント関連合併症の多くを未然に防ぐことができます。当院の症例でもこれらを徹底した結果、肺塞栓や神経障害といった重大な合併症は発生していません。

 

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【まとめ】

 FenestredとLIF症例.jpg

フェネストレイテッドスクリューは、骨粗鬆症に伴う不安定な脊椎を安定化させる上で非常に有効な手段です。適切なセメント注入と術中管理を行えば、合併症のリスクを最小限に抑えつつ、従来のスクリューに比べて格段に強固な固定力が得られます。

 

今後さらに症例を積み重ねることで、より安全で効果的な手術手技の確立が期待されます。高齢者医療がますます重要となる今、この技術の普及は日本の脊椎外科にとって極めて大きな意義を持つといえるでしょう。

 

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【参考文献】

 

Cook, S. D., et al. (2004). Biomechanical study of pedicle screw fixation in severely osteoporotic bone. The Spine Journal, 4(4), 402-408.

 Guo, H. Z., et al. (2019). The cement leakage in cement-augmented pedicle screw instrumentation in degenerative lumbosacral diseases. European Spine Journal.

Sun, H.-B., Jing, et al. (2022). Risk factors for pulmonary cement embolism. International Journal of Surgery.

 Morimoto, T. (2023). Cardiopulmonary cement embolism following CAPS. Medicina, 59(2).

 

 

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