成尾整形外科病院

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手術後の腰の傾きが悪化?腰椎変性側弯症の矯正手術に潜むリスクとその予防策

 

 

 

【腰椎変性側弯症の手術後に起こる側方ずれ(冠状面不整)とは?】

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腰椎変性側弯症(ようついへんせいそくわんしょう)は、主に高齢者にみられる背骨の横方向のゆがみです。この病気が進行すると、姿勢が崩れたり、脊柱管狭窄症や椎間孔狭窄で下肢に痛みやしびれが出たりして、日常生活に支障をきたすことがあります。

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手術によって背骨のバランスを整えることで、症状の改善が期待されますが、実は手術後に「冠状面アライメント不整(coronal malalignment)」という合併症が生じることがあります。これは、正面から見たときに背骨が左右どちらかに傾いてしまう状態を指します。

この不整が残ると、せっかくの手術の効果が十分に得られず、腰痛や機能障害が持続することが知られています。今回ご紹介するのは、この術後の冠状面不整について、どのような人に起こりやすく、どんな対策が有効かを明らかにした最新の研究結果です。

【女性に多い?冠状面不整を引き起こすリスク因子】

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本研究は、腰椎変性側弯症に対して手術を受けた617人を対象に、術後に冠状面不整が起きた191人と、起きなかった426人を比較しました。

分析の結果、以下のようなリスク因子が明らかになりました。

  1. 女性であること:術後に不整を起こした患者の約90%が女性でした。これは、女性が骨粗しょう症や筋力低下など、背骨の安定性を損なう要因を抱えやすいためと考えられます。
  2. 術前の側弯が強い:特に、背骨のゆがみを表す「コブ角(Cobb角)」や、背骨の最下部であるL4・L5の傾きが大きい患者では、手術後もバランスが崩れやすい傾向にありました。
  3. 矯正が不十分だった場合:手術で背骨のゆがみがしっかりと整えられなかった場合、特にL4・L5の角度が術後も大きく傾いていた患者では、不整の発生リスクが高くなっていました。

つまり、「術前の状態が重症であったり」、「手術の矯正が足りない場合」、「特に女性」であることが、冠状面不整を引き起こす可能性が高いといえます。

【術後の生活に与える影響と、患者満足度】

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では、冠状面不整があると、手術後の生活はどうなるのでしょうか?

この研究では、患者自身の感じる機能障害を評価する「ODI(オスウェストリー障害指数)」を用いて比較しました。その結果、冠状面不整があった患者は、なかった患者に比べてODIスコアが高く(=障害が強い)、生活の質が下がっていることが示されました。

一方で、痛みの度合いを評価する「VAS(視覚的アナログスケール)」には大きな差が見られませんでした。これは、見た目の傾きやバランスが悪くなることで、筋力や姿勢の維持に負担がかかり、慢性的な疲労感や動作の不自由さに繋がるものの、直接的な痛みとして感じにくい可能性があるためです。

このように、術後のバランスの崩れは、見た目だけでなく、日常生活への大きな影響を及ぼすことがわかりました。

【リスクを減らすには?今後の手術戦略と注意点】

冠状面不整を防ぐためには、いくつかのポイントがあります。

    1. 術前評価の徹底:骨の変形だけでなく、骨密度や筋肉の状態など、患者全体の体の状態を把握することが重要です。
      1. 個別に応じた手術計画:画一的な手術ではなく、それぞれの患者に合った矯正量や固定範囲を計画する必要があります。

 例えば、以下のような新しい戦略が注目されています:

     段階的矯正法(Sequential Correction Technique):この方法は、複数のステップに分けて徐々に背骨のゆがみを矯正する方法です。まず、脊柱の中央部分から矯正を開始し、次に上下へと拡大していきます。このアプローチは、無理のない矯正を実現し、手術中や術後のバランス維持に効果的とされています。
     - 優先マッチング法(Priority-Matching Technique):この方法は、背骨全体のバランスを取るうえで「最も傾きに寄与しているカーブ(主要カーブ)」を最初に積極的に矯正するという考え方です。その後、他の部分のカーブをその変化に応じて矯正します。この方法により、術後の冠状面の不整を大きく減らすことができると報告されています。


術後フォローの充実

    :手術後も定期的にX線などで骨のバランスを確認し、早期の異常を見逃さない体制が求められます。また、リハビリによる筋力強化も欠かせません。

さらに、将来的にはAI(人工知能)を用いて、患者の状態から手術後のリスクを予測する技術の開発も進んでいます。

【まとめ】

腰椎変性側弯症の手術後に起こる冠状面アライメント不整は、術前の重度な変形や手術矯正の不十分さ、女性であることなどが関係していることが明らかになりました。

この不整が残ると、機能障害の回復が妨げられる可能性があり、術後の生活の質に影響を与えます。したがって、手術を成功させるには、術前のリスク評価と個別化された手術計画、そして術後の管理が非常に重要です。

これから手術を考えている方や、そのご家族にとって、本記事が安心と納得の材料になれば幸いです。

 

引用論文

  1. Dongfan Wang, Yan Zhang, Stone Sima, et al. "Risk Factors for Postoperative Coronal Malalignment in Degenerative Lumbar Scoliosis and Its Impact on Clinical Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis." Spine. 2025. DOI:10.1097/BRS.0000000000005429
  2. Shi B, Liu D, Zhu Z, et al. "Sequential correction technique in degenerative scoliosis with type C coronal imbalance." J Neurosurg Spine. 2022.
  3. Lu S, Zhu W, Diwan AD, et al. "Global Coronal Malalignment in Degenerative Lumbar Scoliosis and Priority-Matching Correction Technique to Prevent Postoperative Coronal Decompensation." Global Spine J. 2024.

 

 

 

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