成尾整形外科病院

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熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

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【人工股関節置換術と骨接合術】60〜80歳の大腿骨頸部骨折に最適な治療法とは?

 

転倒高齢女性.png

 

 

【大腿骨頸部骨折とは?中高年で急増する骨折とその治療選択】

 大腿骨近位部骨折4.JPG

大腿骨頸部骨折とは、太ももの付け根にあたる「股関節」の骨が折れることを指します。

 

特に60〜80歳の中高年では、骨粗鬆症による脆弱な骨が転倒などの軽い衝撃で起こりやすく、寝たきりのリスクを高めるため早期の治療が重要です。

 大腿骨近位部骨折 (4).JPG

THA.jpg

治療法には、骨折した部位を金属で固定する「骨接合術(Internal Fixation, IF)」と、人工の股関節に置き換える「人工股関節置換術(Total Hip Arthroplasty, THA)」があります。

 

どちらの方法がより良い結果をもたらすのか、中高年層を対象とした比較研究が行われました。

 

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【治療後の痛みと生活の質に差が!人工股関節置換術の優位性】

 

北海道の2病院で行われたこの研究では、60〜80歳の骨折患者92人を対象に、骨接合術(48人)と人工股関節置換術(44人)の効果を比較しました。

 

術後1年時点での痛みや日常生活への影響を、患者自身の評価である「PROMs(患者報告アウトカム指標)」を用いて調査しました。

 

結果として、次の点で人工股関節置換術を受けた患者の方が優れていました。

 

痛みの軽減(VASスコア)

日常生活動作やスポーツ動作(HOOSスコア)

精神的満足度(JHEQスコア)

手術に対する満足度

 

これらの指標はすべて、臨床的に意味のある改善を示す基準(MCID)を上回っていました。

 ORIFとTHA成績図.jpeg

Table 4(術後12か月アウトカム)

HHS、HOOS、JHEQすべてでTHA群がIF群を有意に上回り、MCIDやMDCを超える差を確認。疼痛・満足度のVASスコアでも同様。

 

【再手術のリスクと手術侵襲のバランスをどう考えるか】

 

人工股関節置換術のもう一つの利点は、「再手術の少なさ」です。

 

骨接合術を受けた患者では、約29%が再手術を必要とし、そのうち14.5%は人工股関節への切り替えを余儀なくされました。

 

一方、人工股関節置換術を受けた患者で再手術が必要だったのはわずか2.2%で、しかもその原因は感染によるものでした。

 

ただし、人工股関節置換術は以下の点で骨接合術よりも侵襲が大きいという現実もあります。

 

手術時間が長い(平均80分 vs 47分)

出血量が多い(276ml vs 16ml)

輸血の必要性が高い(32% vs 0%)

 

このため、体力や持病のある患者には慎重な判断が必要です。

 

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# 【まとめ:中高年の骨折治療、人工股関節がより良い選択か?】

 

本研究から得られる大きな結論は、「60〜80歳の患者においては、人工股関節置換術が骨接合術よりも痛みの軽減や生活の質の向上に優れている」ということです。

 

さらに、再手術のリスクが低く、1年後の満足度も高いため、医師と患者が治療法を選ぶ際の重要な判断材料となります。

 

ただし、人工股関節置換術には手術侵襲の大きさという欠点もあるため、患者の健康状態や希望に応じて最適な治療法を選ぶ必要があります。

 高齢者歩行.png

 

【引用論文】

Mitsutake R, Tanino H, Sato G, Ito H (2025) Internal fixation versus total hip arthroplasty for displaced femoral neck fractures in patients aged 60 to 80 years: Patient-reported outcomes and complications. *PLoS ONE* 20(5): e0323106. [https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323106\:contentReference\[oaicite:2\]{index=2}](https://doi.org/10.1371/journal.pone.0323106:contentReference[oaicite:2]{index=2})

 

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