成尾整形外科病院

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腰部脊柱管狭窄症の手術成功率を左右する"多裂筋"とは?MRIでわかる回復力のヒミツ

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【腰部脊柱管狭窄症の手術成功を左右する?多裂筋の脂肪と回復力の深い関係】

腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は、高齢化とともに増加している疾患です。主な症状は、立っていたり歩いたりすると足がしびれたり痛んだりする「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」です。保存的な治療(薬やリハビリ)で改善が見られない場合には、手術が選択されます。

しかし、手術を受けた全員が満足のいく結果を得られるわけではありません。研究によれば、約3~4割の患者さんが「思ったほど良くならなかった」と感じているそうです。

その中で注目されているのが、腰の奥にある多裂筋(たれつきん)の状態です。


多裂筋脂肪浸潤.jpg

【多裂筋の脂肪量が回復に与える影響】

最新の研究では、手術前のMRIで確認できる多裂筋の「脂肪浸潤(しぼうしんじゅん)」の程度が、術後の回復や満足度と密接に関連していることがわかりました。

研究では149人の患者さんを対象に、MRI画像を使って多裂筋と脊柱起立筋の脂肪の割合を測定しました。その脂肪量が50%未満を「非重度」、50%以上を「重度」と分類し、5年間にわたり経過を観察しました。

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その結果、多裂筋に脂肪が少ない「非重度」グループは、回復率や手術満足度が高くなる傾向が見られました。具体的には、5年後に「回復した」と感じた患者さんの割合は、非重度で約53%、重度では約26%。手術が成功したと評価した割合も非重度で約81%、重度で約51%でした。

一方で、脊柱起立筋ではこうした明確な差は見られなかったため、多裂筋の健康状態が特に重要であると考えられます。


【痛みよりも注目すべき「日常生活への影響」】

多くの人が気にする「痛み」についても研究されましたが、多裂筋の脂肪量と痛みの強さには明確な関連は見られませんでした。しかし、日常生活への支障を示す「Roland-Morris機能障害質問票(RMDQ)」では、多裂筋の脂肪が少ないグループの方が障害の程度が軽い傾向がありました。

つまり、「痛み」そのものではなく、生活の質(QOL)や動きやすさにおいて多裂筋の健康状態が大きな影響を与えていることがわかります。


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【術前から始まる回復への準備:多裂筋トレーニングと術前リハビリ】

この研究から見えてくる重要なメッセージは、多裂筋の脂肪が少ない=筋肉の質が良いと、術後の回復も良くなるということです。そこで注目されているのが「術前リハビリ(プレハビリテーション)」です。

◇ 術前リハビリとは?

手術前に体力や筋肉の質を高めておくことで、術後の回復をスムーズにする取り組みです。とくに慢性的な腰の疾患では、すでに筋力が落ちていることが多いため、手術前から筋肉を鍛えておくことで、手術の効果を最大限に引き出すことができます

◇ 自宅でもできる!多裂筋を鍛える簡単エクササイズ

以下は自宅でできる安全な多裂筋トレーニングの一例です。

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  • ドローイン:お腹を軽くへこませて10秒キープ。仰向けで行います。深部筋を刺激します。
  • バードドッグ:四つ這いで、対角線の手足を同時に上げて10秒キープ。左右交互に行います。
  • ブリッジ:仰向けでお尻を持ち上げる運動。腰とお尻の筋肉に効果的です。
  • ブリッジ.png

これらの運動は多裂筋や体幹の安定性を高め、術後の生活の質を向上させる効果が期待できます

◇ 術前リハビリの3つのメリット

  1. 回復が早くなる
  2. 手術の成功率が上がる可能性
  3. 再手術や慢性的な機能障害の予防につながる

大切なのは、必ず医師や理学療法士と相談しながら進めることです。無理な運動は逆効果になる可能性があるため、適切なサポートのもとで安全に行うことが大切です。


【まとめ】

  • 多裂筋の脂肪量が少ない人ほど、手術後の回復が良好
  • 痛みよりも「生活機能の改善」に影響が大きい
  • 術前から多裂筋を鍛える「プレハビリ」が術後の生活を左右する

腰部脊柱管狭窄症の手術を控えている方や、慢性的な腰痛に悩む方は、今から筋肉の健康を意識することで、未来の生活の質を大きく変えることができるかもしれません。


【参考文献】

Wesselink EO, et al. "Lumbar multifidus intramuscular fat concentrations are associated with recovery following decompressive surgery for lumbar spinal stenosis: A longitudinal cohort study with 5-year follow-up." Spine. DOI:10.1097/BRS.0000000000005408

 

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