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頚髄損傷の治療は時間との勝負!早期除圧術が回復に与える影響
【脊髄損傷とは?早期対応の必要性】
交通事故や転倒などによって首に強い衝撃を受けると、頚髄(けいずい:首の骨の中を通る神経)が損傷することがあります。これを「頚髄損傷」と呼び、重い場合は手足のまひや呼吸困難に至る重大な後遺症を残します。
こうした重度の障害に対し、最も基本的かつ重要な治療法が「手術による除圧(じょあつ)」です。これは骨や腫れなどで圧迫されている神経を、外科手術によって早急に開放する処置です。
しかし、これまで医療現場では「手術はいつ行うべきか?」について明確な結論が出ていませんでした。そうした中、2024年に発表された最新の論文では、発症から24時間以内の早期除圧術が、より良い神経回復につながるという重要な結果が報告されました。
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【早期除圧術の効果:神経回復が2倍以上】
この研究では、過去に報告された21の研究を再分析し、手術のタイミングと回復具合の関係を詳しく調査しました。
その結果、24時間以内に手術を受けた人は、それ以降に手術を受けた人に比べて、神経機能が回復する確率が2倍以上であることが分かりました。具体的には、アジア機能障害評価スケール(AIS)という国際的な基準で2段階以上改善した割合が顕著に高かったのです。
図2:発症から24時間以内の手術は、後期手術群に比べてASIA運動スコアが有意に改善(MD: +4.5)。神経機能の実質的な回復効果を示すデータであり、臨床的にも意義が大きい。
さらに、手足の筋力スコア(AMS)でも平均4.5ポイントの改善がみられ、これも臨床的に意味のある改善とされています。
図3:early手術群は、late手術群と比較して6ヶ月時点でAISスコアが2グレード以上改善する確率が約2.8倍(RR: 2.76)であることを示す。治療効果の強さを示す主要なエビデンス
つまり、早く手術することで、まひが軽くなり、将来的に自分で歩いたり、日常生活がしやすくなる可能性が高くなるのです。
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【安全性と副次的な利点:合併症リスクは増えない】
手術を早く行うと、体が弱っている段階での手術になるため、「かえって危険ではないか?」と心配されるかもしれません。
しかしこの研究では、早期手術を受けた人と遅れて手術を受けた人で、死亡率や重大な合併症(感染症、手術器具の不具合など)の発生率に違いはないことも確認されました。
また、早期手術は入院期間を平均3.5日短縮できるという結果もあり、医療費の削減やリハビリ開始の早期化にもつながる可能性があります。
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【今後の課題と「超早期」手術の可能性】
24時間以内の手術が効果的であることは明らかになりましたが、最近では「発症から8時間以内」や「4時間以内」といったさらに早い段階での手術(超早期除圧術)の可能性にも注目が集まっています。
ただし、今回の研究ではこうした「超早期手術」の効果については、明確な結論を出すには研究の質が不十分とされています。今後の大規模な臨床研究が待たれます。
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【まとめ:頚髄損傷は時間との戦い】
頚髄損傷は、時間との戦いです。
今回の最新の研究により、受傷から24時間以内に手術を行うことが、神経機能の回復に大きく影響する**ことが分かりました。しかも、安全性も確保されており、医療的にも経済的にも有益です。
救急医療や整形外科の現場では、こうした「早期除圧術」の重要性をさらに認識し、速やかな対応が求められます。患者さんご自身やご家族も、こうした知識を持っていることで、より良い選択を支援できるでしょう。
【引用論文】
Fehlings MG, Hachem LD, Tetreault LA, et al.
*Timing of Decompressive Surgery in Patients With Acute Spinal Cord Injury: Systematic Review Update.*
Global Spine Journal. 2024;14(3S):38S-57S. doi:[10.1177/21925682231197404](https://doi.org/10.1177/21925682231197404)
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