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骨は強いのに折れやすい?高齢女性の糖尿病と骨折リスクの関係を解説

 

【糖尿病なのに骨は強い?その裏に潜む骨折リスクとは】

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一見すると、骨密度が高ければ骨折のリスクは低いと思いがちです。しかし、近年の研究で、糖尿病の高齢女性は骨密度が高くても骨折しやすいことが分かってきました。

 

スウェーデンで行われた「SUPERB研究」では、75〜80歳の女性3,000人以上を対象に、骨の状態や身体機能、そして骨折の発生を約7年間にわたり追跡しました。この研究は、糖尿病のある女性とない女性の違いを詳しく分析した点で注目されています。

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その結果、糖尿病の女性は骨密度がむしろ高く、骨の構造も良好であるにもかかわらず、骨折のリスクは高かったのです。一体なぜでしょうか?

 

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【骨は丈夫でも折れやすい?糖尿病患者に見られた特徴】

 

この研究では、糖尿病の女性は大腿骨や腰椎など、主要な部位の骨密度が4〜5%高いことが確認されました。

 

また、骨の中でも特に重要な役割を果たす海綿骨の構造も糖尿病患者の方が良好で、骨の強さを示す"破壊荷重"や"剛性"といった力学的な指標も高かったのです。

 

これは一見、骨折しにくそうな状態ですが、実際には骨折率は糖尿病の女性の方が高く、約1.26倍のリスクがあることがわかりました。特に、脊椎や骨盤などの主要部位での骨折が多く見られました。

 

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【鍵は「運動機能の低下」糖尿病が引き起こす体の衰え】

 

では、なぜ骨が強くても骨折してしまうのでしょうか? その答えは「身体機能」にあります。

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糖尿病の女性は、歩行速度が遅く、握力が弱く、片足立ちの時間も短いなど、全般的な運動機能が低下していました。また、椅子からの立ち上がり回数や歩行スピードのテストでも、非糖尿病群に比べて明らかに劣っていました。

 

さらに、糖尿病の女性は転倒のリスクが高く、実際に転倒による骨折が多かったことも分かりました。つまり、骨そのものの質よりも、筋力やバランス感覚の低下が骨折の主な原因と考えられるのです。

 

このような機能低下の背景には、糖尿病による末梢神経障害や筋肉の衰えがあるとされており、これが転倒や骨折につながっていると考えられます。

 

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【骨折予防には「運動」と「血糖コントロール」が鍵】

 

この研究結果から導き出される重要なポイントは、糖尿病のある高齢女性が骨折を防ぐためには、単に骨密度を測るだけでは不十分ということです。

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むしろ、筋力トレーニングやバランス訓練を通じて運動機能を維持・向上させることが、骨折予防には欠かせません。

 

さらに、血糖値のコントロールも大切です。ヘモグロビンA1cの値が高い女性ほど骨折リスクが高かったというデータもあり、血糖管理の重要性が改めて浮き彫りになりました。

 

薬剤の種類によっても骨折リスクに差があり、特にインスリンを使用している女性は骨折リスクが1.7倍と高く、注意が必要です。

 

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【まとめ】

 

骨密度が高くても骨折リスクがあるという今回の研究結果は、私たちの常識を覆すものでした。

 

糖尿病を抱える高齢女性は、見た目の骨の強さに安心することなく、身体機能の維持に努めることが大切です。

 

日常生活の中で、軽い運動や転倒予防のための工夫を取り入れるだけでも骨折リスクを下げることができるでしょう。

 

「骨を守る」には、「筋力とバランス」を守ることが最も大切なことなのです。

 

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参考論文

Zoulakis M, Johansson L, Litsne H, Axelsson K, Lorentzon M. Type 2 Diabetes and Fracture Risk in Older Women. JAMA Netw Open. 2024;7(8):e2425106. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.25106

 

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