元気になるオルソペディック ブログ
腰椎固定術が変わる!3D患者適合型ガイド(MyspineMC)を用いたCBTスクリュー固定術の最新技術とは?
【腰椎手術の革新:CBTスクリューと3D患者適合型ガイドの融合】
腰痛は多くの方が経験する身近な悩みです。その中でも、腰部脊柱管狭窄症や変性すべり症といった疾患に対して行われる「腰椎固定術」は、日々進化しています。
従来の手術方法では、筋肉を大きく剥がす必要があり、術後の痛みや回復の遅れが課題でした。そこで登場したのが「CBT(皮質骨トラジェクトリ)スクリュー」という新しいネジの打ち方です。CBTは椎弓根の内縁から硬い皮質骨に沿って椎弓根外側にむけて刺入する軌道で最大限に硬い皮質骨に接触するため固定性がつよい刺入方法です。
そしてその精度と安全性をさらに高める技術として、「3D患者適合型ガイド(MySpineMC)」が注目を集めています。
このガイドは、患者さん一人ひとりの背骨の形に合わせて3Dプリンターで作成され、手術中のスクリュー挿入を正確にナビゲートしてくれます。
【高精度と安全性を実現:3Dプリントガイドの実力】
CBTスクリューは、椎体の外側の硬い骨(皮質骨)を狙って斜めに挿入する手法です。従来のまっすぐな挿入とは異なり、骨への食いつきが良いため、骨粗鬆症の患者さんにも向いています。しかしその分、適切な角度と位置に打ち込むのが難しいという課題がありました。
そこで役立つのが、CTスキャンをもとに作成された「3D患者適合型ガイド」です。このガイドは、患者さんの背骨の立体モデルにぴったりとはまるよう設計されており、スクリューの正確な挿入角度と深さを物理的に誘導してくれます。
実際の研究では、ガイドを用いたスクリュー挿入の平均誤差はわずか0.6mm程度。85%以上のスクリューが計画通りの角度に収まっており、神経損傷のリスクが大幅に低減しています。
【経験が浅い外科医でも安心:整形外科レジデントの使用例でわかった効果】
手術の成功は、医師の経験に左右されがちです。しかし、3D患者適合型ガイドは、経験の浅い医師にも大きな助けとなります。
実際、Maruoらの報告によれば、整形外科レジデント(研修医)でも、ガイドを用いることでスクリュー挿入の精度が91%に達しました。しかも、10症例を超えたあたりからは97%まで向上し、誤挿入の割合が劇的に減少しました。
これは、「ガイドバー法」と呼ばれる補助技術と組み合わせることで、スクリューのぶれを抑える工夫がなされているためです。さらに、手術時間も徐々に短縮し、放射線被ばく量も減るという副次的なメリットも報告されています。
【若年者の腰椎分離症にも応用可能:将来性に期待】
3D患者適合型ガイドは、単なるスクリュー挿入補助だけにとどまりません。Mobbsらの報告では、若年者に多い「腰椎分離症(pars defect)」の修復にも応用され、安全かつ正確なスクリュー挿入が可能だったとされています。
この症例では、従来のBuck法という古典的手術に3Dプリント技術を組み合わせ、術前に最適なスクリュー経路と長さ・太さを計算。患者特化のドリルガイドを作成し、最小限の侵襲で病変部位を固定しました。
術後のCTでは、スクリューが理想通りの位置に挿入され、5カ月後には骨癒合(骨がしっかりくっつくこと)も確認されました。
このように、3Dガイドは若年者から高齢者まで幅広い患者層に安全な脊椎手術を提供する可能性を持っています。
【まとめ:次世代の腰椎手術を支える3D技術】
3D患者適合型ガイドは、CBTスクリューという新たな手術技術を支える「目に見えるナビゲーション装置」とも言える存在です。従来のフリーハンド手術では難しかった高精度のネジ挿入が可能となり、神経損傷リスクの低減、放射線被ばくの削減、整形外科外科レジデントの技術支援など、さまざまな利点があります。
今後はさらに多くの臨床研究が進み、適応範囲の拡大とともに、より多くの患者さんがこの恩恵を受けられるようになるでしょう。
【引用文献】
- Nicola Marengo et al. Cortical Bone Trajectory Screw Placement Accuracy with a Patient-Matched 3-Dimensional Printed Guide in Lumbar Spinal Surgery: A Clinical Study. World Neurosurg. 2019
- Keishi Maruo et al. Accuracy and safety of cortical bone trajectory screw placement by an inexperienced surgeon using 3D patient-specific guides for transforaminal lumbar interbody fusion. Journal of Clinical Neuroscience. 2020
- Ralph J. Mobbs et al. Three-Dimensional Planning and Patient-Specific Drill Guides for Repair of Spondylolysis/L5 Pars Defect. World Neurosurg. 2019
免責事項
- 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
- 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
- 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
- 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
- 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。
当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。