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プロ野球選手が最も多く経験する怪我とは?MLBデータから読み解く全49,955件の分析
【はじめに:プロ野球選手の怪我の実態を知ろう】
プロ野球選手と聞くと、華やかな舞台で活躍するイメージが強いかもしれません。しかしその裏側では、日々多くの怪我と闘っています。特にアメリカのメジャーリーグ(MLB)およびマイナーリーグ(MiLB)では、怪我による欠場が選手生命に直結する重要な課題となっています。
今回は、2011年から2016年の6年間に発生した49,955件の怪我を分析した大規模な報告書をもとに、どのような怪我が多く、復帰までにどの程度の時間を要するのか、そして手術や再発の可能性について詳しく解説します。
【怪我の全体像:6年間で約5万件の怪我が発生】
この調査では、MLBとMiLBに所属する選手が、通常の野球活動中(試合や練習など)に負った怪我のうち、1日以上の欠場が必要だったケースを対象としました。
調査期間中に発生した怪我は合計49,955件。そのうち90%以上が非シーズン終了型の怪我で、トータルで72万2176日間、選手たちはプレーできませんでした。1件あたりの平均欠場日数は16日ですが、中央値は6日と、比較的軽度な怪我が多いことも分かりました。
ポジション別では、投手が最も多く(全体の39.1%)、次いで内野手(27.1%)、外野手(22.8%)、捕手(11.0%)の順でした。特に投手は、他のポジションに比べて怪我の発生率が約4~5倍も高く、リスクの高いポジションであることがうかがえます。
【よくある怪我TOP6:最多はハムストリング肉離れ】
Figure 4:
怪我部位別の内訳。筋肉(31%)が最多で、靱帯(9%)、腱(8%)が続く。筋肉系のトラブルが多いことが特徴。
49,955件のうち、最も多かった怪我は「ハムストリングの肉離れ」で、3337件(6.7%)でした。ハムストリングとは、太ももの裏にある筋肉群で、走塁時などに強く使われる部位です。復帰までに要する平均日数は14日程度でした。
続いて多かったのは以下の通りです:
- 2位:肩の腱板(けんばん)損傷・断裂(1874件)
肩を構成する筋肉や腱が損傷するもので、特に投手に多くみられます。 - 3位:腰背部の筋肉の肉離れ(パラランバー筋)(1313件)
腰を支える筋肉の損傷で、スイングや投球での負担が原因です。 - 4位:上腕二頭筋腱炎(いわゆる「力こぶ」の腱の炎症)(1264件)
過度な投球によって炎症が起き、長引くと手術が必要になることもあります。 - 5位:腹斜筋の肉離れ(脇腹の筋肉)(1249件)
スイング動作に関与し、一度損傷すると再発しやすいのが特徴です。 - 6位:肘の内側側副靭帯損傷(UCL損傷)(1191件)
トミー・ジョン手術で知られる重症の怪我で、約60%がシーズン終了となっています。
これらのデータから、特に筋肉系の怪我が多く、全体の約31%を占めていたことが分かります。
【観点1:怪我の発生部位別の特徴と傾向】
Figure 5:
身体部位別の怪我割合。上肢(肩、手、肘など)が39%、下肢(太腿、膝、足首など)が35%。野球の特性が反映。
怪我の発生部位を部位別にみると、上半身(肩・肘・手首など)の怪我が39%、下半身(股関節・膝・足など)の怪我が35%でした。特に注目すべきは、投手に多い「肘」や「肩」だけでなく、走塁や守備に関わる選手でも「太もも」や「股関節」「腰」など下半身の怪我が多かったことです。
中でも、「ハムストリング損傷」「股関節痛」「アキレス腱の炎症」などは、再発しやすいことでも知られており、予防トレーニングの徹底が求められています。
【観点2:怪我による欠場日数と復帰への影響】
すべての怪我を対象にすると、1件あたりの平均欠場日数は16日でしたが、重症化した場合にはシーズン終了(年間で復帰できない)となるケースもあります。
特に重症化しやすい怪我は以下の通りです:
- 肘の靭帯損傷(UCL損傷):シーズン終了率60%
- 肩の関節唇損傷(SLAP損傷):50.9%
- 内側側副靱帯炎(肘の炎症):21.3%
- 前腕の筋肉損傷:20%
これらの怪我は、手術が必要となるケースも多く、選手のキャリアに重大な影響を及ぼす可能性があります。
【観点3:怪我の原因と予防の可能性】
怪我の原因を分類すると、最も多かったのは「非接触性の怪我」で全体の55.3%を占めていました。これは、他の選手や道具との接触ではなく、走塁中や投球動作中など自分自身の動作により発生する怪我です。
非接触性の怪我が多いということは、予防可能な要素があるということです。例えば:
- 柔軟性を高めるストレッチ
- 筋力バランスの調整
- 正しいフォームの習得
- 十分なウォーミングアップとクールダウン
これらの対策を行うことで、怪我の発生率を減らすことが可能です。特に再発が多いハムストリング損傷や肩・肘のトラブルに対しては、シーズン前からの準備が重要になります。
【おわりに:データから見える今後の課題】
今回の調査結果から、MLBおよびMiLBにおいては、年間で約8,300件もの怪我が発生し、多くの選手がプレーを断念しています。しかしその一方で、怪我の種類や発生傾向を正確に把握することで、予防や早期復帰のための対策が見えてきました。
これからも怪我の少ない野球環境を整えるためには、データを活用したトレーニングや予防医学の導入が欠かせません。選手自身も自身の体に耳を傾け、怪我の兆候を早期に察知することが大切です。
【引用文献】
Camp CL, Dines JS, van der List JP, et al. Summative Report on Time Out of Play for Major and Minor League Baseball: An Analysis of 49,955 Injuries From 2011 Through 2016. Am J Sports Med. 2018; DOI:10.1177/0363546518765158
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