成尾整形外科病院

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スポーツ好きな10代に多い"分裂膝蓋骨"とは?見逃しがちな症状と対応法

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【分裂膝蓋骨とは?見逃されがちな発育異常】

「分裂膝蓋骨(ぶんれつしつがいこつ)」とは、膝のお皿の骨が2つ以上に分かれたまま成長する発育の異常です。医学的には「二分膝蓋骨(bipartite patella)」とも呼ばれます。

通常、膝蓋骨(しつがいこつ=お皿の骨)は、2歳から6歳ごろに複数の骨の核が一つにくっついて完成します。しかし約2〜6%の人ではこの骨が完全に癒合せず、軟骨組織をはさんだまま分かれた状態で成長します。これが分裂膝蓋骨です。

この状態はほとんどの場合、無症状であり、レントゲンなどで偶然見つかることが多いです。ただし、スポーツなどによる強い力が加わることで、まれに痛みを生じる「症候性分裂膝蓋骨」になることがあります。

とくに10代の男子に多く、男女比は9:1ともいわれています。両側に起きるケースも約50%にのぼります。

【症状と診断のポイント】

症候性になると、膝のお皿の外側、特に上外側に圧痛(おすと痛む場所)がみられます。ジャンプや走る動作、あるいは転倒などの外傷をきっかけに発症することが多いです。

主な症状は以下の通りです:

  • 前膝の痛み(特に運動時)
  • お皿の外側の圧痛
  • 腫れや違和感
  • スポーツ中や階段昇降時の痛み

レントゲン撮影で診断されますが、必要に応じてMRIやCT検査で骨の状態や軟骨損傷の有無を確認します。また、他の疾患(たとえば膝蓋骨骨折)との鑑別も重要です。

Saupe分類という分類法では、以下の3タイプに分けられます:

分裂膝蓋骨分類.jpg

  • タイプ1:膝蓋骨の下部に小さな骨片(5%)
  • タイプ2:外側に位置する骨片(20%)
  • タイプ3:お皿の上外側に骨片(最も多く70%)

【【治療はどうする?保存療法と手術の選択】】

◯ まずは保存療法から

論文によると、314人(315膝)において、約76%の患者が保存療法だけで改善しています。保存療法には次のような手段が含まれます:

分裂膝蓋骨保存.png

  • スポーツの一時中止(安静)
  • 氷冷・湿布などの炎症抑制
  • 膝のサポーターや装具による保護
  • 痛み止め(NSAIDs)内服
  • 理学療法(ストレッチや筋力訓練)

平均して1.9か月程度で痛みが改善し、運動への復帰が可能になるケースが多いとされています。

◯ 改善しない場合の手術適応

約24%の患者は保存療法で効果がなく、手術治療を受けています。手術は以下のような方法があり、約91%の症例で症状の改善が見られました。

  • 分裂した骨片の摘出(excision)
  • ネジやピンで固定(screw fixation)
  • 関節鏡下手術
  • 外側支帯の切離(lateral release)
  • 軟骨部のドリリング(刺激して骨癒合を促す)

手術後のリハビリにより、6〜13週間ほどでスポーツへの復帰が可能となっています。

ただし、一部の患者(9.2%)では、再手術が必要なケースもありました。原因としては、骨片の取り残しや、インプラントの刺激、偽関節、再外傷などが挙げられています。

【最新の治療戦略と今後の展望】

この論文では、小児・10代に対する治療戦略を提案しています。

推奨される流れは以下の通りです:

  1. 膝前面の痛みを認めた場合、まずX線検査で分裂膝蓋骨の有無を確認。
  2. 急性骨折でなければ、まずは3か月間の保存的治療を実施。
  3. 改善がない、または患者の希望があれば手術を検討。

今後注目の新治療法

超音波ガイド下でのステロイド注射や、腱の一部を小さく切って痛みを和らげる"フェネストレーション技術"など、新しい治療法も登場しています。13歳の患者に対する小規模研究では、約86%が改善し、平均4.2週間で運動復帰したと報告されています。

ただし、まだ十分なデータがないため、今後の研究と長期成績の蓄積が待たれる段階です。


【まとめ】

  • 分裂膝蓋骨は多くの場合、無症状で治療不要。
  • 痛みがある場合は、まず保存療法が第一選択。
  • 改善しないときは、手術で高い成功率が期待できる。
  • 近年は低侵襲な方法や新しい治療選択肢も登場。

スポーツに取り組む子どもたちが安全に活動を続けるためにも、早期診断と適切な治療判断が大切です。保護者や指導者の皆さんも、膝の痛みの訴えを見逃さず、専門医の受診をおすすめします。


【引用論文】

Hines KE, Liu DS, Steele AE, et al. Treatment of symptomatic bipartite patella in patients <21 years of age: A systematic review and treatment algorithm. J Child Orthop. 2025;19(1):75-82. https://doi.org/10.1177/18632521241308410

 

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