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腰椎固定術の成功を左右する「ケージ沈下」とは?」リスクと対策を専門医が解説
# 腰椎固定術後の「ケージ沈下」って何?患者さんの生活に与える影響と予防策
腰の手術「腰椎椎体間固定術(ようついついたいかんこていじゅつ)」は、腰の不安定さや神経の圧迫による痛みを取り除くために行われます。この手術で使われる「ケージ」と呼ばれる器具は、背骨同士をしっかり支えるための重要なパーツです。
ところがこのケージが術後に沈み込んでしまう「ケージ沈下(subsidence)」が発生することがあります。今回はこのケージ沈下について、最新の研究結果をもとに、患者さんの生活にどのような影響があるのか、そしてその予防法についてわかりやすくご紹介します。
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【ケージ沈下の影響と症状:腰痛が再発する?】
ケージ沈下とは、手術で入れたケージが背骨の骨にめり込むように沈み込んでしまう現象です。具体的には、術後のCT検査で1mm以上沈み込んでいた場合に「ケージ沈下」と診断されます。
この沈下が進むと、次のような問題が起こることがあります。
椎間板の高さが低くなり神経の圧迫が再発
腰のぐらつきが残り、腰痛や下肢の痛みが続く
骨と骨がうまくくっつかず「偽関節(ぎかんせつ)」になる
ボルトやスクリューのゆるみが起こりやすくなる
実際、研究ではケージ沈下が起こったグループのほうが、起こらなかったグループに比べて、術後の腰痛や足のしびれが長引く傾向がみられました。特に術後6か月から1年にかけて、症状の改善度に大きな差が出てきます。
Table 4: ODIスコアの変化。両群で改善するが、非CS群でより顕著な改善。HRQOLへのCSの悪影響を支持。
Table 5: VASスコア(痛み評価)。CS群は術後の痛み改善が不十分で、12か月までその傾向が続くことが示されています。
【ケージ沈下の主な原因とリスク因子:1つより2つが安心?】
この研究では、PLIF(後方椎体間固定術)またはTLIF(経椎間孔的椎体間固定術)を受けた138名の患者さんを対象に分析が行われました。その結果、以下の要因がケージ沈下のリスクと関係していることが分かりました。
ケージの個数
2個のケージを使用した場合は、1個より沈下しにくいという結果が出ました(沈下率20% vs. 48%)。
ケージが2個あると、重さが分散されるため、骨にかかる圧力が減り、沈下しにくくなると考えられています。
骨移植(自家骨)の埋め込み状態
術直後の骨の充填率が高い方が、ケージ沈下が少ないという結果でした。
つまり、手術のときにしっかり骨を詰め込むことが重要ということです。
ケージの位置
*前方にしっかりと配置されたケージのほうが沈みにくい傾向がありました。
骨の中心部よりも周囲の方が硬く強いため、ケージはなるべく外側に設置することが望ましいとされています。
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【術後の回復と生活への影響:どうすれば予防できる?】
ケージ沈下は、術後数か月で始まり、じわじわと進行していきます。早期に沈下を起こした患者さんでは、腰痛や足のしびれが長く続く傾向がありました。また、骨がうまく癒合しない(偽関節)やスクリューのゆるみも、ケージ沈下があると起こりやすくなります。
術後の生活に大きな影響を与えるため、できるだけケージ沈下を予防することが大切です。
専門医からのアドバイス:予防のために大切なポイント
1. 2個のケージを使う手術方式(PLIF)を選択する
2. 自家骨(自分の骨)をしっかり埋め込む手技を行う
3. ケージをなるべく背骨の前方かつ外側に配置する
4. 術後は医師の指示通りにコルセットを着け、リハビリを継続する
これらをしっかり行えば、術後の回復も良くなり、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
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まとめ:ケージ沈下は予防できる!術式と手技がカギ
腰椎固定術後のケージ沈下は、決してまれな合併症ではなく、約22%の患者さんに見られる問題です。しかしながら、手術の方法と手技を工夫すれば、高い確率で予防できることが、この研究から明らかになりました。
特に、2個のケージを使うPLIF手術と、しっかり骨を詰める骨移植の技術が重要です。ケージ沈下を防ぐことが、術後の痛みの改善や生活の質(QOL)の向上につながります。
腰の手術を受ける方や、術後の経過が気になる方は、ぜひ担当の医師とこれらのポイントについて相談してみてください。
【引用論文】
1.Hoai T.P. Dinh, Hiroki Ushirozako, et al.
"Risk Factors and Consequences of Cage Subsidence after Single-level Posterior or Transforaminal Lumbar Interbody Fusion: A Retrospective Multicenter Study"
*Spine Surgery and Related Research*, 2025; 9(3): 339-349.
2.Lowe TG, Hashim S, Wilson LA, O'Brien MF, Smith DAB, Diekmann MJ, Trommeter J.
A biomechanical study of regional endplate strength and cage morphology as it relates to structural interbody support.
Spine (Phila Pa 1976)*. 2004;29(21):2389-2394.
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