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「手のしびれ」に効く!手根管症候群の保存療法を徹底解説【整形外科専門医監修】
【手根管症候群とは?その原因と症状】
手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)は、手首を通る「正中神経(せいちゅうしんけい)」が圧迫されて起こる病気です。
特に親指・人差し指・中指のしびれや痛み、夜間や朝方に悪化することが特徴です。
原因は様々で、女性ホルモンの影響から妊娠中に発症することもあります。
また、糖尿病や肥満、関節リウマチなどの基礎疾患が関係していることも多くあります。
さらに、手をよく使う仕事やパソコン作業なども要因となり得ます。
重症の場合は手術が必要になることもありますが、多くの方は軽症〜中等症であり、まずは手術以外の「保存療法」が選択されます。
【まずは試したい保存療法:装具・注射・理学療法】
手根管症候群の保存療法には、以下のような方法があります。
■ 装具療法(手首のサポーター)
装具は、手首を中間位で固定することによって、神経への圧迫を減らす効果が期待されます。
夜間に使用することで、眠っている間のしびれや痛みを軽減できます。
ただし、研究によれば症状の改善効果は小さく、特に長期的な効果については不明な点もあります。
それでも、侵襲が少なく副作用も少ないため、最初に試す価値がある治療法です。
■ ステロイド注射
ステロイドは炎症を抑える薬です。注射することで神経周囲の腫れを減らし、圧迫を緩和することができます。
短期間では明らかな効果が確認されており、痛みやしびれの軽減が期待できます。
ただし、効果はあくまで一時的で、数ヶ月以内に再発するケースが多く、最終的には手術に至ることも少なくありません。
■ 超音波療法・神経滑走運動(ニューロダイナミックテクニック:Neurodynamic Techniques)
超音波療法は、患部を温めて血流を改善し、神経の回復を助ける目的で使われます。
一方で、神経滑走運動とは、関節や筋肉を動かして神経の「滑り」を良くし、圧迫を和らげるリハビリ法です。
これらも短期的な効果は報告されていますが、根本的な治療になるかはまだ研究段階です。
特に神経滑走運動については、一部の研究では手術と同等の効果があるとされ、注目されています。
【話題の治療法は本当に効く?PRP・ESWT・漢方的アプローチ】
■ PRP注射(自己血小板注入療法)
PRPとは、自分の血液から取り出した「成長因子」を含む成分を注射する治療法です。
理論上は、神経の修復を促進するとされていますが、現在のところ科学的根拠は乏しく、高額であることもネックです。
■ 衝撃波治療(ESWT)
衝撃波を患部に当てることで、血流を改善したり、神経の再生を促すとされる方法です。
初期の研究では短期間での症状改善が見られたものの、長期的な効果や神経機能の改善にはつながらない可能性が高いとされています。
■薬物療法
手根管症候群では、「神経が圧迫されて痛みやしびれが出る」のが主な症状です。
このような神経の痛み(=神経障害性疼痛)に対して、次のような薬が使われることがあります:
薬の種類 |
主な名前(例) |
目的 |
抗てんかん薬 |
ガバペンチン、プレガバリン |
神経の興奮を抑えて痛みを軽減 |
抗うつ薬 |
アミトリプチリンなど |
神経系に働きかけて慢性的な痛みを和らげる |
消炎鎮痛薬 |
ロキソニン、イブプロフェンなど |
腫れや炎症を抑える(効果は限定的) |
ビタミンB群 |
メコバラミンなど |
神経の修復を助ける可能性あり |
どんな効果が期待できる?
たとえば、ガバペンチンやプレガバリンは、糖尿病性神経痛や帯状疱疹後神経痛などの神経障害性疼痛に効果があります。
そのため、手根管症候群にも「効くかもしれない」と考えられ、研究が行われてきました。
ですが――
結論として、効果はとても限定的です。
- プレガバリンは、手根管症候群では十分な効果を示すエビデンスが乏しい
- ガバペンチンも、しびれや痛みの軽減にほとんど差がなかったという研究結果があります
- 眠気やめまいなどの副作用があり、メリットが少ないと評価されています
なぜなら、手根管症候群の原因は「神経の圧迫」であり、これは薬では取り除けないからです。
薬は「痛みやしびれを一時的にやわらげる」ことが目的であり、症状の進行や神経の回復を直接助けるわけではありません。
ステップ4:薬物療法はどう使えばいい?
薬物療法は以下のようなケースで一時的に用いられます:
- 「夜間のしびれがつらくて眠れない」
- 「注射や装具では効果が薄いけれど、手術はまだ避けたい」
- 「神経滑走運動や理学療法と併用して痛みを抑えたい」
このような場合、医師と相談のうえで短期間使用するのが一般的です。
まとめ:薬物療法の位置づけ
ポイント |
内容 |
目的 |
一時的な痛みやしびれの軽減 |
効果 |
軽度の神経痛には一定の効果あり/根本的な治療効果は乏しい |
副作用 |
眠気・ふらつき・集中力低下など |
推奨される使い方 |
他の保存療法と組み合わせて短期間使用 |
装具や注射、神経滑走運動などの保存療法を軸に、症状が重ければ手術による神経の解放が必要となります。
薬物療法は、あくまで「症状を一時的に緩和する補助的手段」と考えていただくのが正解です。
【まとめ:保存療法の限界と上手な活用方法】
現在、手根管症候群に対する保存療法には様々な選択肢がありますが、「決定的に効く」方法はまだ存在しません。
それぞれの治療に小さな効果はありますが、長期的に症状を抑えるものではないことが多いです。
そのため、症状が軽度であれば、まずは装具療法や注射、簡単なリハビリなどを試し、
改善が乏しい場合や生活に支障がある場合には手術も視野に入れる必要があります。
重要なのは、患者さん一人ひとりのライフスタイルや希望に応じて、段階的に治療を進めることです。
信頼できる整形外科専門医と相談しながら、無理のない治療計画を立てることをおすすめします。
【この記事のまとめ】
- 保存療法は軽度〜中等度の手根管症候群に有効
- 装具や注射、神経滑走運動に一定の効果がある
- 長期的な効果は乏しく、重症例では手術も選択肢
- 患者さんの希望と症状に応じて柔軟に対応することが大切
引用論文:
Karjalainen, T., Raatikainen, S., Jaatinen, K., & Lusa, V. (2022). Update on Efficacy of Conservative Treatments for Carpal Tunnel Syndrome. Journal of Clinical Medicine, 11(950). https://doi.org/10.3390/jcm11040950
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