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アキレス腱を切ったらどうする?手術vs保存療法、治療選びのポイント
【アキレス腱断裂とは?増えている原因と基本的な症状】
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵をつなぐ非常に強い腱で、歩行やジャンプ、ダッシュといった日常の動作に欠かせない役割を果たしています。
このアキレス腱が突然切れることを「アキレス腱断裂」と呼び、スポーツをしている中高年に多く見られます。特に、テニスやバスケットボール、フットサルなどの瞬発力が必要な動きで発症しやすいです。
断裂した瞬間、「バチン」という破裂音が聞こえたり、ふくらはぎに殴られたような衝撃を感じたりすることが特徴です。歩けなくなったり、つま先立ちができなくなったりした場合は、すぐに整形外科を受診する必要があります。
最近では健康志向の高まりによりスポーツ人口が増加し、それに伴いアキレス腱断裂の発生件数も増えています。
【手術と保存療法、それぞれのメリットとリスク】
アキレス腱断裂の治療には、大きく分けて手術と保存療法の二つの方法があります。どちらを選ぶかは、患者の年齢、活動レベル、基礎疾患の有無などを総合的に考慮して判断されます。
手術による治療の特徴
手術には、腱を直接縫い合わせる「開放手術」と、皮膚の切開を最小限に抑える「低侵襲手術」があります。
手術の最大の利点は、再び断裂するリスクが低いことです。ある研究では、手術後の再断裂率は約2.3パーセントとされ、保存療法の3.9パーセントよりも低い結果となっています。
また、仕事への復帰や日常生活への回復も、平均して約19日早いというデータが報告されています。
ただし、手術には合併症のリスクがあります。開放手術では傷口からの感染が6パーセント、神経の損傷が2.8パーセント、血栓が1パーセントの頻度で発生するとされており、慎重な判断が必要です。なお、低侵襲手術では感染のリスクは0.4パーセントと低くなっていますが、逆に神経障害のリスクが高くなることが報告されています。
保存療法の特徴と進歩
保存療法とは、手術を行わずにギプスや専用の装具で患部を固定し、自然にアキレス腱の治癒を促す方法です。以前は再断裂のリスクが高いと考えられていましたが、現在では早期に体重をかける「早期荷重療法」を取り入れることで、手術に匹敵する回復が得られるとされています。
イギリスで行われたUKSTARと呼ばれる大規模な研究では、ギプス固定よりも専用の装具による治療の方が、再断裂率や治療後の機能スコアに大きな差はなく、非常に有効であることが示されました。
保存療法の主な利点は、手術による合併症を避けられる点と、医療費が比較的安く済む点です。ただし、活動性の高い人では再断裂のリスクがやや高くなる傾向があるため、注意が必要です。
【リハビリと予防が治療成功のカギ】
治療が始まった後、どのようにリハビリを進めるかが回復の成否を大きく左右します。アキレス腱の断裂は治療そのものよりも、治療後の管理が重要といっても過言ではありません。
現在の主流は、「早期動員リハビリ」と呼ばれる方法で、できるだけ早い段階から足を動かすことで、関節のこわばりや筋力低下を防ぎます。
手術を受けた患者の中には、18か月後の時点で筋力が非手術群よりも18パーセント高く回復していたという報告もあります。このことからも、適切なリハビリの重要性がうかがえます。
再断裂を防ぐためには、以下のような点に注意しましょう。
- 医師の指示に従い、リハビリのスケジュールを守る
- 装具やギプスを正しく使用する
- 無理な運動やジャンプを控える
- 筋肉のバランスを整えるためのトレーニングを継続する
また、職場復帰やスポーツ再開の時期については、医師と相談しながら慎重に進めていくことが大切です。
【患者に合った治療法を選ぶ時代へ】
これまでの治療は医師主導で行われることが一般的でしたが、最近では「患者中心の医療」が重視されるようになっています。
治療方法の選択においても、年齢やライフスタイル、仕事、スポーツ活動の有無などを考慮し、患者自身の希望を尊重することが推奨されています。
たとえば、スポーツを再開したい若年層には手術が向いていますし、高齢で日常生活を重視する方には保存療法が好まれる傾向にあります。
最も重要なのは、医師と患者がしっかりとコミュニケーションをとり、納得のいく治療方針を共に決めることです。治療に対する満足度が高いほど、回復意欲やリハビリへの取り組みも前向きになります。
【まとめ】
アキレス腱断裂は、早期の適切な対応と継続的なリハビリによって、高いレベルでの回復が可能な疾患です。手術と保存療法にはそれぞれ利点と注意点があるため、医師とよく相談し、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
整形外科専門医として、正確な診断と信頼できる医療の提供に努めるとともに、患者一人ひとりに合った最適な治療法を共に考えていきたいと思います。
【参考文献】
Saggar R, Mullen J, Mangone PG, Hogan MV. Achilles Tendon Ruptures: Nonsurgical Versus Surgical Treatment. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery. 2025;41(5):1252-1254. https://doi.org/10.1016/j.arthro.2025.02.002
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