成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

元気になるオルソペディック ブログ

思春期特発性側弯症とは?最新の原因・診断・治療法を整形外科専門医が解説

側弯症イラスト.png 

【思春期特発性側弯症の原因と発症メカニズム】

思春期特発性側弯症(Adolescent Idiopathic Scoliosis:AIS)は、10歳頃から骨の成長が止まるまでの子どもに発症する背骨のねじれを伴う側弯(横に曲がる)変形です。原因がはっきりわかっていないため「特発性」と呼ばれています。

AISは、子どもの約2〜4%に見られ、特に女性に多く、重症になるほど女性の割合が高まります。近年の研究では、遺伝、ホルモン、骨の成長バランスの異常など複数の要因が関係していると考えられています。

側彎症双子.png

まず遺伝の関与ですが、家族に側弯症の人がいると発症リスクが高まり、特に一卵性双生児では発症が一致しやすいことが報告されています。また、エストロゲンという女性ホルモンの分泌量が少ないことも、思春期の女性に多い理由の一つとされています。

側彎症と睡眠.png

カルモジュリンというたんぱく質が血小板で高くなると、側弯の進行と関係があるとも示されており、これは背中の筋肉の働きと深く関係しています。また、メラトニンという睡眠に関係するホルモンの不足も側弯症の発症に関連しているとされています。

成長期の骨の発達も影響します。特に背骨の前側(お腹側)が後ろ側よりも早く伸びる「相対的前方成長過剰(RASO)」という現象が、ねじれを引き起こす要因とされています。また、骨の硬さが不十分な「骨密度の低さ(骨粗しょう症の軽度の状態)」も、側弯の進行に関係します。これにはビタミンDの不足も関係しており、血中のビタミンD濃度が低い子どもでは側弯が進行しやすいという報告もあります。

【診断と検査で重要なポイント】

AISの診断は、まず外見上の変化に気づくことから始まります。片方の肩が下がっていたり、腰のくびれ方が左右で異なったり、背中の片側が盛り上がって見えることがあります。

側弯検診.png

簡単なチェックとして「アダムス前屈テスト」があります。これは前かがみになることで、背中の回旋(ねじれ)を観察する方法です。このとき「スコリオメーター」という角度を測る道具を使って、7度以上の回旋があれば専門医への受診がすすめられます。

側彎症レントゲン症例.jpg

画像検査では「立位の背骨レントゲン(正面と側面)」が基本です。そこで測定される「コブ角」という角度が10度以上で、ねじれを伴う場合にAISと診断されます。骨の成長段階(リッサー分類)や月経の有無、成長スパートの時期なども、進行のリスクを評価する上で重要です。

ただし、レントゲン撮影は放射線被曝の問題があるため、最近では「EOS」という低線量で立体的に背骨の状態を確認できる画像診断装置が注目されています。特に成長期の子どもにとって、安全性が高い検査方法です。

【治療法の選択と手術の最新事情】

AISの治療には、大きく分けて「経過観察」「装具(コルセット)治療」「手術」の3つがあります。選択肢は、背骨の曲がりの強さ(コブ角)と成長の残り具合によって変わります。

軽度(25度未満)で成長がまだある場合は、6ヶ月ごとのレントゲンで経過観察を行います。中等度(25〜45度)で成長が残っていれば、装具治療が行われます。特にリッサー分類が0〜2の段階が装具治療の適応です。

「ボストンブレース」は、衣服の下に隠せることから装着しやすく、最も一般的です。「リゴ・シェノーブレース」は3次元的に背骨を矯正する機能があり、効果が高いという研究結果もあります。装着時間は1日16〜20時間が推奨され、これを守ることで約72%の患者が手術を回避できたというBRAIST研究もあります。

45度以上の重度、または装具で効果がなかった場合には手術が検討されます。最も一般的なのが「後方脊椎固定術(PSF)」で、背中から金属の棒とネジで背骨を固定する方法です。手術によって曲がりの改善と姿勢の安定が得られます。

近年では「前方脊椎固定術(ASF)」や「前後同時手術」の選択肢もあります。前方アプローチは、固定する範囲を少なくできるという利点がありますが、肺機能への影響があるため慎重な判断が必要です。

さらに注目されているのが「椎体間テザー法(VBT)」です。これは骨の成長力を利用して、成長とともに側弯を徐々に改善させる新しい手術法で、背骨の動きを保てる点が特徴です。VBTは現在のところ限られた施設での実施ですが、将来の標準治療になる可能性を秘めています。

AISの治療は、早期発見・早期対応が鍵です。子どもの姿勢や背中の形に少しでも気になることがあれば、早めに整形外科を受診しましょう。


【参考論文】(Addai D, Zarkos J, Bowey AJ. "Current concepts in the diagnosis and management of adolescent idiopathic scoliosis". Child's Nerv Syst. 2020)

 

免責事項

  • 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
  • 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
  • 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
  • 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
  • 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。

当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。