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前十字靭帯再建術の再断裂リスクはスポーツで変わる?最新研究から見る安全な選択とは
【前十字靭帯再建術の再手術率:スポーツによる違いは?】
前十字靭帯(ACL)は、膝関節の安定性を保つ大切な靭帯です。激しい運動をすると断裂してしまうことがあり、スポーツ選手には特に多いケガのひとつです。
ノルウェーの研究チームは、ACL再建術を受けたスキー、サッカー、ハンドボール選手14,201人のデータを調査しました。その結果、再手術が必要になったのは全体で5%、つまり20人に1人の割合でした。
スポーツの種類別では、スキー選手で3.8%、サッカー選手で5.0%、ハンドボール選手で6.1%が再手術となりました。しかし、年齢や腱の種類などの影響を除外して分析すると、これら3つのスポーツで再手術率に大きな差はないことがわかりました。
この結果から、どのスポーツをしているかよりも、他の要因が再断裂のリスクに大きく関係していることが示唆されます。
【年齢が重要!若いほど再断裂しやすい?】
年齢は再断裂リスクに大きく影響します。特に18歳以下では、再断裂のリスクが35歳以上と比べて5倍に上ることが明らかになりました。
若い選手は筋力や体力の回復が早く、再建手術後の復帰も早くなりがちです。しかし、術後1年以内に再手術となった例が16%もあり、無理な早期復帰がリスクを高めている可能性があります。
そのため、復帰のタイミングは慎重に判断すべきです。ある研究では、術後の競技復帰を1カ月遅らせるごとに再断裂リスクが51%減ると報告されています。
若年層への対応には、リハビリの徹底とともに、教育や予防プログラムの導入が必要です。
【移植腱の選び方:ハムストリングスか膝蓋腱か?】
ACL再建手術では、自分の腱を移植して靭帯を再建します。主に使われるのは「ハムストリングス腱(HT)」と「膝蓋腱(BPTB)」の2種類です。
研究によれば、HTを使った場合の再断裂リスクはBPTBの約1.8倍に上ります。特に18歳以下では、その差は2.8倍にまで広がります。
HTは術後の痛みが少なく、可動域が保たれるという利点がありますが、再断裂の可能性が高いという欠点があります。一方で、BPTBは安定性に優れる反面、術後に前膝部痛が起きやすいという報告もあります。
また、成長期の子どもでは、骨の成長に影響するリスクがあるため、BPTBの使用は注意が必要です。成長板(骨の端の成長する部分)が閉じてからの使用が推奨されています。
したがって、特に若いアスリートにおいては、BPTBの使用が推奨されますが、個々の成長状態や希望を考慮した上での選択が重要です。
まとめ
ACL再建術の再断裂リスクに影響するのは、スポーツの種類よりも、年齢や移植腱の種類でした。
特に若年層ではリスクが高く、再建術後の復帰タイミングや腱の選択が将来を大きく左右します。
スポーツ復帰を目指す選手にとって、手術だけでなく予防・リハビリ・手術方法の選択も重要な要素です。
ACL再建を検討している方、特に若いアスリートやその保護者は、医師としっかり相談しながら、最も安全で効果的な治療法を選びましょう。
引用論文:
Ekeland A, Engebretsen L, Fenstad AM, Heir S. Similar risk of ACL graft revision for alpine skiers, football and handball players: the graft revision rate is influenced by age and graft choice. Br J Sports Med. 2019; doi:10.1136/bjsports-2018-100020
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