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股関節インピンジメント手術後の経過を左右する3つの要因と改善策を解説!

股関節鏡手術の長期成績は年齢・肥満・女性で変わる?最新研究でわかったリスクと対策

股関節鏡手術は、股関節に発生する大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)症候群関節唇損傷の治療法として近年注目されています。
この手術によって、長期的にも多くの患者さんが良好な経過をたどることが知られていますが、一部の方では再手術や症状の残存が報告されています。
今回は最新の論文をもとに、「どんな人が手術後に注意すべきなのか」「どんな対策ができるのか」をわかりやすく解説します。


【年齢・肥満・女性―長期成績に影響する3つのリスク】

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近年の研究では、年齢が高い方・体重が重い方(高BMI)・女性は、股関節鏡手術の長期的な経過がやや劣る傾向にあることが報告されています。
具体的には、10年以上のフォローアップ調査において、手術を受けた患者さんの中でもこれらの要素を持つ方では症状が残る割合や再手術になる割合がやや高くなることが明らかになりました。

BMIとは、「体格指数」とも呼ばれる指標で、体重(kg)を身長(m)の二乗で割って算出されます。BMIが25以上だと「太り気味」、30以上だと「肥満」と判定されます。
米国では股関節鏡手術を受ける患者さんの約42%が「太り気味」または「肥満」に該当しているというデータもあります。

また、年齢についても、加齢に伴い関節の変性が進みやすくなるため、手術後の成績がやや悪くなる傾向があります。
女性については、股関節の構造や骨の形に性差があり、不安定性(=ぐらつき)を起こしやすいことが影響している可能性が指摘されています。

ただし、これらは「絶対に手術がうまくいかない」という意味ではありません。多くの方が改善を実感しており、「傾向がある」というデータに過ぎません。


【手術後に大切なのは"リスクの最適化"】

ここで大切なのは、「年齢」「肥満」「女性」であること自体が、手術の禁忌(絶対に受けてはいけない条件)ではないということです。

特にBMI(肥満)は改善が可能なリスク因子です。
手術前に体重管理や栄養指導を受け、適正な体重に近づけておくことが、より良い成績につながります。

BMI30以上の方には必ず減量と栄養指導を実施し、十分に準備を整えてから手術に臨む必要があります。

年齢についても、関節の変性(変形性関節症)が進んでいなければ、良好な結果を得られる可能性が高いことが示されています。
特に「Tönnis分類」と呼ばれる画像診断で、グレード0または1(軽度の変性)であれば、術後の改善が期待できます。

また、女性の方については、手術時に関節包(関節を包む袋)の修復を適切に行うことで、股関節の不安定性を防ぎ、成績向上が期待できます。
実際、現在は「関節包修復」が標準的な手技となっています。


【患者ごとに最適な治療戦略を選ぶことの重要性】

これまで述べたように、股関節鏡手術の長期成績は、年齢・体重・性別によってある程度左右されますが、それぞれのリスクに応じて対策を講じることで、ほとんどの患者さんで良好な経過が得られることがわかっています。

最新の研究では、手術を受けた患者さんの約92%が臨床的な改善を実感し、再手術となったのは約10%と報告されています。
また、手術後10年以上たっても、痛みや機能の改善が維持されているケースが多数見られます。

大切なのは、事前に自分のリスクを知り、納得した上で治療方針を選ぶことです。
医師との十分な相談を通じて、体重管理や生活習慣の見直しを行い、必要に応じて運動やリハビリも取り入れていくことが推奨されます。

また、「自分は高齢だから」「太っているから」「女性だから」と諦めず、リスクは工夫次第でコントロールできることを知っておきましょう。
医療の進歩により、以前より多くの患者さんが手術の恩恵を受けられるようになっています。


【まとめ】

  • 股関節鏡手術は、FAIや関節唇損傷に対して長期的に良好な成績が期待できます。
  • 年齢が高い方、肥満の方、女性の方では成績がやや劣る傾向がありますが、工夫や対策により十分に改善が期待できます。
  • BMIは改善可能なリスク因子であり、減量や栄養指導が効果的です。
  • 女性の方は股関節の不安定性にも配慮し、関節包の修復を行うことが大切です。
  • 手術を受ける際は、自身のリスクを理解し、医師とよく相談した上で最適な治療を選びましょう。

【引用論文】

Moran J, Salandra J, Jimenez AE. Editorial Commentary: Older Age, Higher Body Mass Index, and Female Sex May Be Associated with Inferior Long-Term Outcomes in Patients Undergoing Primary Hip Arthroscopy for Femoroacetabular Impingement, but with Modification of Risk Factors, Positive Results Can Still Be Achieved. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery (2025), doi: https://doi.org/10.1016/j.arthro.2025.04.019.

 

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