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坐骨神経痛の治療法選び:手術か保存療法か、患者が求める"納得の痛み改善"とは?
坐骨神経痛に手術は必要?患者が「やる価値がある」と感じる効果の最小ラインとは
坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)は、腰から足にかけて広がるしびれや痛みを伴うつらい症状です。多くの場合、椎間板ヘルニアなどによって神経が圧迫されることで発症します。今回は、そんな坐骨神経痛に対する「手術は本当に必要なのか?」という疑問に答える最新の研究をご紹介します。
この研究では、オーストラリア在住の坐骨神経痛の患者200人を対象に、手術を受ける価値があると感じる「最小限の効果」について調査が行われました。その結果は、今後の治療選びに大きなヒントを与えてくれるものです。
【手術の効果は何%あれば「やってもいい」と思える?】
研究の中心的な問いは、「坐骨神経痛に対する手術(椎間板摘出術)が、どれくらい痛みを減らしてくれれば、患者は『受けてよかった』と感じるか?」というものです。
結論から言うと、**患者が手術を受ける価値があると考える最小限の追加的な痛みの改善は15%**でした。
これは、非手術療法(薬物治療、運動療法、ブロック注射など)によって通常得られる50%の痛み軽減に加えて、さらに15%の改善があるなら、「手術する価値がある」と考える人が多いということを意味します。
◯ 急性・慢性の違いでも評価は変わる
さらに詳しく見ていくと、坐骨神経痛の持続期間によってこの「価値の基準」はやや変化します。
- 急性(6週間以内)や慢性(12週間以上)の患者は、平均して10〜15%の追加効果があれば手術を受けたいと考えました。
- 一方、症状が中程度の期間(6〜12週)続いている「亜急性」群では、20%の改善を求める傾向がありました。
この違いは、手術を受けたい気持ちの強さや、今までの治療経験によって変わると考えられています。
【非手術療法に満足できなかった人ほど「手術のハードル」が低い】
調査では、手術に対する考え方が人それぞれであることも明らかになりました。注目すべき点は、過去の保存療法(非手術的治療)に満足していない人ほど、手術を受けたいと考える基準が低くなるということです。
◯ 保存療法に不満のある人は「少しでも良くなるなら手術したい」
保存療法に満足していない人は、10%の追加的な効果でも手術に価値を見出す傾向がありました。これに対し、治療にある程度満足している人は、20%以上の改善がないと手術に前向きになれないケースも。
これは、「もう色々試したけどダメだった」「少しでも良くなるなら手術でもいい」と感じている人が多いことを意味しています。
◯ 自分の痛みをコントロールできる自信=自己効力感も影響
また、自分の痛みに対処できる自信(痛みの自己効力感)が高い人ほど、「手術しないで頑張りたい」と思う傾向がありました。反対に、自信がない人は「手術に頼ってもいい」と感じやすくなっています。
つまり、「過去の治療経験」や「自己コントロール感」が、手術の判断に強く影響しているのです。
【患者の目線を反映した"現実的な手術評価"】
この研究が評価される理由は、これまでとは異なるアプローチを取っている点にあります。
これまでの臨床研究では、ある治療法が「有効かどうか」を医学的な指標(統計的な差)で判断してきました。しかしこの研究は、**「患者が実際に受けたいと思う効果の最小ライン(Smallest Worthwhile Effect, SWE)」**を明らかにしています。
◯ 患者視点で見た"価値ある治療"の基準
SWEとは、手術のリスクや費用、入院などの不便さを考慮したうえで、「これだけ痛みが減るならやってもいい」と思える最小の効果のことです。
つまり、医師側の「この治療は効果がある」ではなく、患者が「この効果ならやってもいい」と思えるかどうかが重視されているのです。
◯ SWEは「今後の治療選びの新しいモノサシ」に
このSWEという考え方は、今後の治療選択やガイドラインづくりにも大きな影響を与えると考えられます。
例えば、ある研究で椎間板摘出術は非手術療法より短期的に平均1.1ポイント(0〜10スケール)多く痛みが減ると報告されています。この1.1ポイントという数字は、今回のSWE(中央値15%)と一致しています。つまり、患者の多くが「それなら手術を受けてもいい」と思える水準なのです。
おわりに:手術か保存療法か、その選択に「患者の気持ち」を
坐骨神経痛の治療において、「手術するか、しないか」の選択はとても難しい問題です。医師の説明や検査結果だけではなく、患者自身の希望や価値観が重要なカギを握っています。
今回の研究は、そんな患者の気持ちに焦点を当てた画期的なものです。痛みのつらさ、過去の治療への満足度、自分で対処できる自信──それぞれの要素が、治療選びに深く関係していることが明らかになりました。
あなたや身近な人が坐骨神経痛で悩んでいるとしたら、ぜひこの「SWE」という考え方を参考にしてみてください。「どれくらい良くなれば、自分は手術を選びたいと思うのか」を考えることは、納得のいく医療選択への第一歩になるはずです。
【引用論文】
Salame A, Ferreira ML, Hansford HJ, Maher CG, Zadro JR, Christine Lin CW, Diwan A, McAuley JH, Hancock MJ, Harris IA, Ferreira GE. The smallest worthwhile effect of surgery versus non-surgical treatments for sciatica: a benefit-harm trade-off study. Journal of Physiotherapy. 2025;71:125-131. https://doi.org/10.1016/j.jphys.2025.02.012
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