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変形性膝関節症に対するPRP療法の最新エビデンス:効果が期待できる患者とは?
【はじめに】
変形性膝関節症は、年齢や体重増加、運動不足などさまざまな原因で関節の軟骨がすり減る病気です。日常生活の質を大きく下げるため、痛みを和らげる方法を探している方も多いでしょう。近年、「PRP(多血小板血漿)注射」という再生医療が注目されています。PRP注射は自分の血液から成分を抽出して注射することで、膝の痛みや機能の改善が期待できるとされています。しかし、実際にどのような人に効果があるのか、また適応外のケースはどんな場合かについて、世界的な整形外科の専門家グループによる最新のコンセンサスが発表されました。
この記事では、最新のエビデンスと専門医の意見をもとに、PRP注射がどのような膝の患者さんに適しているのか、治療の流れや注意点をわかりやすく解説します。
【PRP注射とは?基本のしくみと効果】
PRPとは「Platelet-Rich Plasma(多血小板血漿)」の略で、自分の血液を採取し、そこから血小板が多く含まれる部分だけを取り出して膝関節に注射する治療法です。血小板はケガをしたときの修復や炎症の抑制に関与する成分で、成長因子やサイトカインといった「組織の回復を助ける物質」を豊富に含んでいます。
これまでの研究では、PRP注射によって膝の痛みや機能が改善するケースが報告されており、従来のヒアルロン酸注射やステロイド注射と比べても優れた効果を示すという論文も増えてきました。ただし、すべての患者さんに同じような効果が現れるわけではなく、効果が期待できる条件や限界もあるため、科学的な根拠に基づいた「適応」の判断が重要です。
【PRP注射の適応:どんな人に効果的?】
専門家による大規模なコンセンサス(ESSKA-ICRSコンセンサス)では、PRP注射の適応について、さまざまな患者のシナリオを想定し、その妥当性が議論されました。結果として、以下のような結論が得られています。
- 保存的治療で改善が得られなかった次の手にPRPが推奨される 保存的治療とは、運動療法や体重管理、痛み止めなど「注射や手術を伴わない治療」のことです。これらを行っても十分な効果が得られない場合、PRP注射が検討されます。また、ヒアルロン酸やステロイドなど他の注射治療も効果がなかった場合に、PRP注射が「適応」と判断されることが多いです。
- 適応年齢は80歳以下、重症度はKL分類で0~III 80歳以下の患者さんで、膝関節の変形が重症(KL分類IV)でない場合、つまり初期から中等度(KL 0~III)の変形性膝関節症でPRP注射が適しているとされています。KL分類とはレントゲンで膝の変形を評価する指標で、数字が大きくなるほど重症です。
- 関節水腫(膝に水が溜まっている状態)が軽度または無い場合が好ましい 膝に多くの水が溜まっている場合は、注射の効果が下がる可能性があります。そのため、必要に応じて水を抜いたうえでPRPを注射するなど、慎重な対応が必要です。
- 第一選択治療としては推奨されない 何も治療していない状態(運動療法や痛み止めも未実施)でいきなりPRP注射を行うのは、今回のコンセンサスでは「適応外」とされています。まずは基本的な保存療法を行うことが大切です。
【PRP注射が適応外となる場合・効果が期待しにくいケース】
一方で、PRP注射が推奨されないケースも明確になっています。
- KL分類IV(重度変形)の場合 軟骨のほとんどが消失してしまっている重度の膝関節症では、PRP注射の効果は十分に期待できず、専門家の合意でも「適応外」とされています。
- 80歳を超える場合 80歳以上の方では、PRP注射の効果が下がることや、そもそも膝関節置換術(人工関節手術)が選択肢となることが多いため、適応外となることが多いです。
- 膝以外の明らかな病変がある場合 大きな骨のゆがみ(5度以上のO脚・X脚)、靭帯の大きな損傷、骨壊死、関節可動域の著しい制限がある場合は、PRPでは根本的な治療が難しいため、他の治療法が優先されます。
- 保存的治療や他の注射治療を全く試していない場合 いきなりPRP注射を希望する場合でも、まずは運動療法や体重管理、ヒアルロン酸やステロイドなどの一般的な注射治療を試すことが推奨されます。
【専門家が強調するポイントと今後の課題】
PRP注射は、注射の回数や成分の濃度、白血球を含むかどうかなど、さまざまな違いがあり、現時点では「どのPRPが最も効果的か」という明確な基準はありません。今回の合意形成でも「PRPの細かな成分による効果の違いまでは判断できない」とされています。そのため、「標準的なPRP治療」として、医師の経験や施設ごとの治療方法に依存しているのが現状です。
また、PRP注射はすべての患者に効果があるわけではなく、約4割のケースでのみ「適応あり」と判断され、多くのケースでは「エビデンス不足による判断保留」とされています。これは「今後さらに質の高い研究が必要」であることを意味します。
【まとめ:PRP注射を検討している方へ】
PRP注射は、膝の変形が中等度までで、保存的治療や他の注射治療で十分な改善が得られなかった80歳以下の方にとって、有効な選択肢のひとつです。特に手術を避けたい方や、早期に日常生活に復帰したい方には、痛みや機能改善が期待できます。ただし、すべての方に効果があるわけではなく、重度の変形や高齢の方では適応外となることが多いので、主治医と十分に相談しましょう。
また、PRP注射の実際の治療内容や費用、リスクなどは医療機関によって異なるため、膝関節の専門医に相談することをおすすめします。
【引用論文】
Kon E, de Girolamo L, Laver L, Andriolo L, Andia I, Bastos R, et al. Platelet‐rich plasma injections for the management of knee osteoarthritis: The ESSKA‐ICRS consensus. Recommendations using the RAND/UCLA appropriateness method for different clinical scenarios. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2024;32:2938-2949. https://doi.org/10.1002/ksa.12320
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