成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

元気になるオルソペディック ブログ

プロ野球投手に多い黄色靭帯骨化症とは?発症の理由と症状・予防法を解説

投手剛速球.png

【プロ野球投手に多い黄色靭帯骨化症とは?】

黄色靭帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう、以下OYL)は、背骨の中でも胸椎(きょうつい)という胸の高さの脊椎で、骨と骨をつなぐ「黄色靭帯(おうしょくじんたい)」が硬くなり、骨のように変化する病気です。

OYL画像.JPG

OYLになると、背骨の中を通る神経の通り道が狭くなり、足のしびれや力が入りにくくなったり、重症では歩けなくなったり、排尿障害(おしっこが出にくい)なども起こることがあります。日本人に多く見られる病気で、特に中高年の男性によく発症しますが、実はプロ野球の投手に若くして発症する例が多いことがわかってきました。


投手足のしびれ.png

【なぜプロ野球投手にOYLが多いのか?その理由】

OYLは通常、加齢による背骨の老化や、遺伝、糖尿病などの全身的な病気が関わると考えられてきました。しかし、プロ野球投手では20〜30代という若い年齢でも発症する例があり、これまでの常識をくつがえす発見がありました。

なぜ投手に多いのでしょうか?その理由は、「ピッチング」という特有の動作にあります。投手は繰り返し高速で体をねじる・ひねる動きを行います。特に、投げる腕とは反対側の背中(非利き手側)に強いストレスがかかります。毎日のように何百回と投げることで、胸椎の黄色靭帯に「局所的な力学的負荷」が集中し、これが靭帯の異常な肥厚(厚くなること)や骨化の原因になると考えられています。

実際、プロ野球選手26人と同年代の一般男性103人を比較した研究では、3mm以上の大きなOYLを持つ割合は、一般男性が約1%だったのに対し、プロ野球選手では15%以上にのぼり、さらにその全員が投手だったという報告があります。

また、OYLの生じやすい部位も特徴的で、投手の場合、胸椎の下部(T10-11、T11-12付近)で、しかも非利き手側に多く発生しています。これはピッチング動作での回旋ストレスが一方向にかかり続けるためです。


【症状と診断、治療の経過 〜選手は復帰できるのか?〜】

OYLを発症した投手は、まず足のしびれや力が入りにくい、歩きづらいなどの症状が現れます。場合によっては排尿障害など、日常生活にも大きく支障をきたすことがあります。

神経学的所見としては下肢の腱反射(膝蓋腱反射、アキレス腱反射)の亢進を伴う下肢の感覚障害は胸髄疾患を疑う所見となります。

胸椎診断アルゴリズムcriticalthiniking.jpg

https://naruoseikei.com/blog/2022/01/thoacic-spine.html

早期発見には、MRIやCTなどの画像検査が重要です。投手のOYLでは、黄色靭帯が片側だけ(多くは左側=右投げの場合)で骨化していることが多く、これは一般の中高年男性とは異なる特徴です。

治療は、症状が軽い場合は安静やリハビリなど保存療法を行いますが、神経障害が進行する場合や日常生活に大きな支障が出ている場合は、手術で骨化した靭帯を切除し神経の圧迫を取り除く必要がでてきます。

実際の症例でも、手術により症状が改善し、しっかりリハビリを経て現場復帰できた投手が多数報告されています。手術後、完全に元のパフォーマンスに戻れた選手もいますが、予防や早期発見のためにも、定期的な検査や適切なトレーニング管理が大切です。


【投手にOYLが多い理由とその対策】

まとめると、プロ野球の投手は、特殊な投球動作によって胸椎の黄色靭帯に大きな力学的ストレスを繰り返し受けることで、若くしてOYLを発症しやすいことが分かっています。

このため、次のような対策が重要です。

  • フォームの工夫やオーバーワークの回避:一方に偏ったストレスが続かないよう、フォームチェックや休息を重視しましょう。
  • 体幹や背中の柔軟性強化・筋トレ:背骨や体幹の筋力をしっかり鍛えることも、予防につながります。
  • 違和感があればすぐに専門医へ相談:足のしびれや力の入りにくさ、排尿の異常などがあれば、早めに受診してください。

また、スポーツ現場の指導者やトレーナーの方にも、この疾患についての知識が広まることが望まれます。


野球復帰.png

【まとめ】

  • プロ野球の投手には黄色靭帯骨化症が一般の人より多く発生しやすいです。
  • 理由は、ピッチング動作による背骨への強い力学的ストレスが関係しています。
  • 症状は足のしびれ、筋力低下、排尿障害などが中心です。
  • 手術で改善し、競技復帰できるケースも多いですが、早期発見・予防が大切です。

背骨の健康を守り、長く野球を楽しむためにも、日々のケアと体のサインに気を付けましょう。

湯浅選手タオル.jpg


【引用論文】

  • Kaneyama S, Doita M, Nishida K, et al. Thoracic Myelopathy Due to Ossification of the Yellow Ligament in Young Baseball Pitchers. J Spinal Disord Tech 2008;21:68-71.
  • 加藤欽志ほか. 関節外科 Vol.35 No.5(2016)プロ野球選手における胸椎黄色靭帯骨化症の疫学-野球選手を中心に-
  • 田所佑都ほか. 社会人野球投手に発症した胸椎黄色靱帯骨化症の1例. 中四整会誌22(2) 222-213 2217

湯浅投手科カード.MP.jpg

 

免責事項

  • 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
  • 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
  • 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
  • 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
  • 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。

当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。