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マラソン大会で心停止が起こる理由と安全に走るためのポイント
マラソン中の心停止リスク:最新研究でわかった原因と予防法
マラソンは健康に良いとされ、多くの人が挑戦しています。しかし、近年はマラソン大会中の心停止がニュースで取り上げられ、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。本記事では、マラソン大会で実際にどのくらい心停止が発生しているのか、どのような人がリスクが高いのか、また安全に走るためにどんな対策ができるのかを、最新の研究論文をもとに解説します。
【1. マラソン中の心停止はどれくらい起こっているのか?】
毎年、アメリカだけでも約200万人がマラソンやハーフマラソンに参加しています。この大規模な集団を対象とした調査では、2000年から2010年の間に、延べ約1090万人のランナーの中で59人が心停止を起こしました。これは、10万人あたり約0.54人、非常に稀なケースであることが分かります。
特にフルマラソン(42.195km)では、ハーフマラソンよりも心停止の発生率が高く、フルマラソンで10万人あたり約1人、ハーフマラソンでは10万人あたり約0.27人という結果でした。つまり、距離が長くなるほどリスクが高まる傾向にあるのです。
また、男女で比べてみると、男性の方がリスクが高く、10万人あたり0.90人に対し、女性は0.16人と報告されています。さらに、年々その発生率は上昇傾向にあり、特に2005年から2010年にかけて男性のフルマラソン参加者で心停止の発生が増えていることが注目されています。
このように、マラソン大会で心停止が起こるリスクは確かに存在しますが、確率としてはかなり低いと言えます。それでも、全くゼロではないため、正しい知識を持って大会に臨むことが大切です。
【2. 心停止の主な原因とリスクが高い人の特徴】
心停止とは、心臓が急に正常な動きを止め、全身への血流が停止する状態です。これがマラソン中に起こる場合、その多くは「心臓の病気」が関係しています。
調査によると、マラソン中の心停止で最も多かった原因は肥大型心筋症と動脈硬化性冠動脈疾患です。
- 肥大型心筋症とは、心臓の筋肉が異常に厚くなる病気で、特に若い男性ランナーで多く見られます。
- 動脈硬化性冠動脈疾患は、心臓の血管が詰まったり、細くなったりする中高年によくある病気です。
特にフルマラソンに参加する中高年男性ランナーでリスクが高いことが分かっています。
また、心停止を起こした人のうち、過去に心臓病の診断を受けていなかったケースも多く、無症状のまま大会当日を迎える人が一定数存在するという課題もあります。
加えて、レースの後半やゴール直後に心停止が起こるケースが多いことも特徴です。体力や心臓への負荷がピークに達するこのタイミングは、特に注意が必要です。
【3. 安全にマラソンを楽しむためのポイントと予防策】
それでは、マラソンに安心して参加するにはどうしたらよいのでしょうか。ここからは、心停止リスクを下げるための具体的なポイントをお伝えします。
まず大切なのは事前の健康チェックです。特に40歳以上の方や、心臓病の家族歴がある方、または高血圧や糖尿病といった生活習慣病をお持ちの方は、マラソン前に医師の診察を受けることをおすすめします。
心電図検査や負荷心電図検査(ランニングや自転車をこぎながら心電図を取る検査)などで、隠れた心臓疾患を発見できることがあります。
次に、トレーニング計画を無理なく立てることが重要です。急激に距離やペースを上げると心臓に大きな負担がかかります。自分の体調や体力に合った練習を心がけ、疲労がたまっているときや体調がすぐれない日は思い切って休むことも必要です。
さらに、大会当日のセルフチェックも欠かせません。朝から胸の痛み、息切れ、動悸、めまいなどの症状がある場合は、無理に出走しない勇気を持ちましょう。また、レース中も体調に異変を感じたらすぐにペースを落とし、必要に応じてリタイアすることが大切です。
そして、AED(自動体外式除細動器)の設置場所を事前に確認しておくことも命を守るポイントです。マラソン大会では多くの場合、コースの要所にAEDが設置され、スタッフが応急処置の訓練を受けています。もしも他のランナーが倒れた場合は、周囲と連携して迅速にAEDを使うことで助かる確率が高まります。
実際、論文によれば**バイスタンダー(通行人や周囲の人)による心肺蘇生(CPR)**やAEDの早期使用が、マラソン中の心停止から生還する最も有効な手段であるとされています。
中学生にも分かりやすく説明すると、心肺蘇生とは「倒れた人の胸をリズミカルに強く押す」ことで血液を脳や体に送る応急手当です。
また、現代のマラソン大会は、医療体制も年々充実してきています。救護所や救急隊、ボランティアが連携し、万が一の事態に迅速に対応できるようになっています。参加者自身も、自分と周囲のランナーの安全を意識しながら走ることで、より安全なマラソンを楽しむことができます。
まとめ:マラソンを安全に楽しむために
マラソン大会で心停止が起こるリスクは、非常に低いとはいえ全くゼロではありません。特に男性やフルマラソン参加者、中高年ランナーは注意が必要です。しかし、事前の健康管理と正しい知識、そして大会運営側の充実した医療体制やAEDの活用により、多くの命が救われています。
「自分は大丈夫」と過信せず、日ごろの体調管理や無理のないトレーニング、異変を感じたときは早めに行動することが大切です。マラソンは達成感や健康増進だけでなく、仲間との絆や人生の充実感も得られる素晴らしいスポーツです。安全に楽しむために、今日からできる対策を意識しましょう。
引用論文
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