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肩の骨折後に後遺症を残さないために!X線画像から読み解く治療のコツ

高齢者上腕骨近位端骨折.png 

【骨折とその後遺症:上腕骨近位端骨折の現状】

高齢者転倒肩骨折.png

上腕骨の近位端とは、肩に近い部分の骨を指します。
この部位の骨折は、高齢者に多く、全体の約6%を占める骨粗鬆症に伴う「骨のもろさ」による骨折です。

この骨折は日常生活にも大きな支障をきたし、腕が思うように上がらない、痛みが続くといった後遺症が問題になります。
また、介護が必要になるリスクもあり、社会的にも大きな負担となります。

ただし、治療法にはまだ明確な正解がなく、手術か保存療法かも症例ごとに意見が分かれるのが実情です。
原因の一つが、「骨のつき方(癒合)」や「骨のズレ(変形治癒)」を評価する基準が統一されていないことにあります。


上腕骨髄内釘.png

【レントゲン画像の重要性:骨のズレと機能の関係】

骨折の治療がうまくいったかどうかを確認する方法として、レントゲン画像の活用は非常に重要です。
とくに「変形癒合(へんけいいゆうごう)」と呼ばれる骨のズレたままの治癒は、機能障害の原因となります。

この記事で中心となっているのが「ヘッドシャフト角(head-shaft angle)」という指標です。
これは、上腕骨の頭(球状の部分)と骨幹部(腕の骨の真ん中)の角度を測ったもので、正常な範囲は125〜145度程度とされています。

研究では、この角度が125度未満(内反変形)、あるいは**145度を超える(外反変形)**と機能障害のリスクが高まることがわかってきました。
また、「大結節(だいけっせつ)」と呼ばれる肩の筋肉が付く突起の位置も、関節の動きに重要な役割を果たします。

しかし、各研究で使用される測定方法や基準がバラバラで、統一された定義がないことが大きな課題です。
これにより、医師が研究を参考にしようとしても「どの結果を信じてよいかわからない」という混乱が生じています。


【よりよい治療のために必要なこと:機能と画像の連動】

上腕骨プレート.png

この論文が特に重要視しているのは、「画像の結果と実際の患者さんの回復状況との関係」です。
患者さんが「痛みがない」「腕がしっかり動く」と感じていることが、レントゲンでどう見えるかを調べることが目的です。

レビューでは、36の臨床研究を分析し、そのうち12件では骨の変形癒合が、患者さんの機能的な回復と明確に関連していると結論づけられています。
たとえば、ヘッドシャフト角が125度未満の場合、肩の動きが悪くなりやすいといった傾向がありました。

しかし逆に、骨の形が少し悪くても、痛みや可動域には影響しない場合もあります。
そのため、今後は「見た目」だけでなく、「実際に生活に支障があるか」という機能評価と画像評価のバランスが重要になります。

この記事では、今後の治療方針として以下の4点を推奨しています:

  1. レントゲン上でのヘッドシャフト角を標準指標とする
  2. 測定には中立位またはやや外旋位で撮影した肩の正面像を用いる
  3. 125度未満を内反変形、145度超を外反変形と定義する
  4. 大結節の位置についても、明確な基準づくりとCTなどの精密検査の活用を推進する

上腕骨骨折後リハビリ.png

まとめ

上腕骨近位端骨折は、高齢者に多く、保存療法から手術療法まであり治療方針が難しい骨折です。
この記事では、X線画像から見た「骨のつき方」と「機能的な予後」の関係に注目しました。

今後の治療では、「見た目のきれいさ」だけでなく、「患者さんがどれだけ痛みなく生活できるか」という機能的な視点とのバランスが求められます。
画像診断の精度を上げ、評価の基準を統一することが、患者さんにとってより良い治療につながる第一歩になるでしょう。


引用文献

Sepehri A, Stockton DJ, Wang WT, Roffey DM, Lefaivre KA, Guy P.
The Methodology and Interpretation of Radiographic Measures for Malunion in Proximal Humerus Fractures: A Systematic Review.
Journal of Shoulder and Elbow Surgery. 2025. doi: 10.1016/j.jse.2025.02.052

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