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腰椎椎間板ヘルニア手術後の再手術リスクとは?年齢・性別・持病が与える影響とは?
腰椎ヘルニア手術の「その後」―再手術や脊椎固定術のリスクとは?
腰椎の椎間板ヘルニアは、激しい腰痛や坐骨神経痛を引き起こす代表的な病気です。
その治療法のひとつが「顕微鏡下後方椎間板摘出術(microLove法)」という手術です。
今回ご紹介するのは、米国の大規模医療データを使って、手術後2年以内に再手術や脊椎固定術を受ける確率と、そのリスク因子を調べた注目の研究です。
以下では3つの視点から、重要ポイントをわかりやすく解説していきます。
【手術後に再び必要となる治療の割合は?】
この研究では、2016年〜2019年にmicroLove法受けた8,158人のデータを分析しました。
その結果、次のような割合で再手術や脊椎固定術が行われていたのです。
- 再摘出術(再度のヘルニア摘出手術)
- 1年以内:3.5%
- 2年以内:5.5%
- 脊椎固定術(骨を金具で固定する手術)
- 1年以内:2.9%
- 2年以内:6.6%
つまり、およそ20人に1人が2年以内に再摘出術、または脊椎固定術を受けていることになります。
この数字は以前の報告と比べてもやや低めで、現代の手術技術の向上が伺えます。
【年齢・性別・持病が影響する「再手術のリスク」】
手術後に再び治療が必要になるかどうかには、患者さんの属性が大きく関わっています。
特に脊椎固定術が必要になるかどうかは、以下の因子と強く関係していました。
- 年齢40〜59歳の方は、若年層に比べてリスクが約70%増加
- 女性の方が男性よりも約20%リスクが高い
- 持病(CCIスコア1点以上)があるとリスクは80%増加
ここで出てきた「CCIスコア(Charlson Comorbidity Index)」とは、
心疾患、糖尿病、がんなど、患者さんが持つ複数の持病の重みを数値化したものです。
特に以下の持病を持つ方は、脊椎固定術のリスクが高まっていました。
- 心筋梗塞や心不全
- 糖尿病(合併症あり)
- 腎臓病、脳血管疾患、慢性肺疾患
- 半身不随や麻痺
- 肝疾患や消化性潰瘍など
これらの病気は血流や組織の回復力に影響を与えるため、
椎間板の変性や手術部位の不安定化を早める可能性があります。
【再摘出術に影響する因子は?―意外にも「持病」は関係なし】
意外なことに、再度のヘルニア手術(再摘出術)に関しては、
年齢・性別・CCIスコアはいずれも統計的に有意な関連を示しませんでした。
ただし、一部の病気は再摘出術のリスクを高めることが分かっています。
- 心筋梗塞を経験した方(リスク50%増)
- 転移性がんのある方(リスク62%増)
- 軽度の肝疾患(リスク20%増)
これらは体全体の健康状態に影響するため、ヘルニア再発の誘因となっている可能性があります。
【再摘出術だけじゃない?注目される椎間板内酵素注入療法とは】
腰椎椎間板ヘルニアが再発した場合、多くのケースでは再摘出術や脊椎固定術が選択されます。
しかし、近年では体に負担の少ない治療法として「椎間板内酵素注入療法」が注目されています。
この治療は、ヘルニアを構成する髄核を分解する酵素(ヘルニコア)を注射で注入し、
ヘルニアのボリュームを減らすことで神経の圧迫を軽減する方法です。
特徴は次のとおりです:
- 切開を伴わない低侵襲治療(メスを使わず、注射のみ)
- 入院は1泊2日の短期間でよい。
- リスクが少なく、再手術を避けたい方に適している
- 手術後の再発にも保険適用で使用可能。
ただし、すべての患者さんに適用できるわけではありません。
椎間板の変性が進みすぎていたり、すでに脊椎の不安定性がある場合には適応外になることがあります。
脊椎外科専門医の適切な診断と適応判断が重要です。
このように、再発時の選択肢は「再摘出術」「脊椎固定術」「酵素注入療法」と複数あり、
それぞれの特徴とリスク・効果をよく理解した上で選ぶことが大切です。
【まとめと医師からのアドバイス】
この研究から分かる重要なポイントは以下の通りです。
- 腰椎ヘルニアの手術後2年以内に再手術を受ける人は少数派(5〜6%程度)
- しかし、40〜59歳・女性・持病持ちの方は脊椎固定術のリスクが高い
- 再摘出術は、健康状態に関わらず一定の確率で発生する可能性がある
手術を受ける際は、持病の管理が非常に重要です。
また、術後の再発を防ぐためには、無理な運動や喫煙の回避、体重管理など、
日常生活でのセルフケアも欠かせません。
脊椎外科専門医として、一人ひとりの状況に合った手術・術後管理の選択が、
長期的な満足度と回復に繋がると確信しています。
引用文献
Kramer DE, Barrett TS, Drury-Gworek C, et al. Risk Factors Associated with Revision Microdiscectomy or Subsequent Spinal Fusion within 2 Years of Index Lumbar Microdiscectomy. Spine. 2025. DOI:10.1097/BRS.0000000000005302
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