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鎖骨骨折は手術と保存療法どちらが早く治る?最新研究で分かった最適な治療法

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【鎖骨骨折の基礎知識と発生メカニズム】

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鎖骨骨折は、全身の骨折の約2.6~4%を占めています。その中でも、約8割以上が鎖骨の真ん中(中間部)で起こります。
近年は、スキーやスノーボードなどのアクティブなスポーツ人口の増加とともに、鎖骨骨折の受傷者も増えている傾向です。
たとえば、スキー場の救急外来患者のうち、6.2%が鎖骨骨折というデータもあります。

ロードバイク鎖骨骨折.png

鎖骨骨折の多くは、肩を強く打ちつけた際に起こります。交通事故やスポーツ中の転倒などで、肩に直接力が加わることが主な原因です。
特に「完全転位型」は、骨が完全にずれてしまうタイプで、治療が難しいことで知られています。

このような鎖骨骨折の治療には「保存療法」と「手術療法」の2つがあります。
保存療法とは、ギプスやバンド(フィギュアエイトバンド)を使って、自然治癒を待つ方法です。
一方、手術療法は、骨を正しい位置に戻し、金属プレートなどで固定する方法です。

どちらを選択するかは、骨折の状態や患者さんの希望、年齢、日常生活での負担、審美性(見た目の問題)、経済的負担などを総合的に考慮して決められます。
ただし、重度の開放骨折や血管・神経の損傷がある場合は、手術が第一選択となります。


【保存療法と手術療法の比較~最新研究のポイント】

今回ご紹介する研究は、中国・北京積水潭病院で2021年8月から2022年12月までに治療を受けた「完全転位・粉砕型鎖骨骨折」患者105人(18~60歳)を対象としたものです。
保存療法を受けたのは55人、手術療法は50人で、平均約21か月間のフォローアップが行われました。

主要な比較項目

  • 骨癒合率(骨がしっかりくっつく割合)
  • 癒合までにかかる時間
  • 機能回復(肩の動きや力、仕事への復帰など)
  • 合併症(感染・神経障害・変形癒合など)
  • 患者自身の満足度や痛み、見た目に関する評価

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1. 骨癒合と回復スピード

手術群では、骨癒合率は98.0%と非常に高く、平均2.4か月で骨がくっつきました。
一方、保存療法群は87.3%で、平均3.7か月と約1か月長くかかりました。
また、骨がなかなかくっつかない「遅延癒合」や、最終的に骨癒合しない「偽関節」の割合も保存療法群で高い傾向がありました。

2. 肩の動きや日常復帰

手術を受けた方は、仕事への復帰が平均1.5か月、肩の可動域回復が1.7か月、肩の筋力回復が3.9か月と、すべて保存療法群よりも早い結果でした。
保存療法群では、仕事復帰3.3か月、可動域回復3.8か月、筋力回復8か月と、回復まで時間がかかる傾向がみられました。

3. 見た目や満足度、合併症

保存療法群では**全例でX線上の変形癒合(骨が曲がってくっつくこと)**が認められました。
ただし、本人が「肩の左右差(見た目の非対称)」を感じたのは45.5%にとどまりました。
手術群では骨の位置がきれいに揃って癒合する一方、術後に「傷あと」や「肩周囲のしびれ(46%)」が報告されました。

手術を受けた方の約9割が、2年以内に金属プレートの抜去手術を希望した点も特徴的です。
これは、プレートが出っ張ることへの不安や違和感、将来の合併症を避けたいという理由によるものです。

一方、痛みや機能評価(Quick-DASH・Constant-Murleyスコア)、満足度では両群に差はなく、最終的な機能や生活への影響は同等と考えられます。


【治療法選択のポイントと患者さんが知っておきたいこと】

鎖骨骨折の治療法選択は、単純に「手術が良い・悪い」「保存が安全・危険」と言い切れるものではありません。
それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身の状況や希望にあわせて選択することが大切です。

保存療法のメリット・デメリット

  • メリット
    • 手術のリスク(麻酔・感染など)がない
    • 費用負担が少ない
    • 入院せず外来通院で治療できる
  • デメリット
    • 骨が曲がってくっつく(変形癒合)リスクが高い
    • 骨がなかなかくっつかない(遅延癒合・偽関節)リスクがある
    • 回復に時間がかかり、肩の筋力・動きの回復も遅い

手術療法のメリット・デメリット

  • メリット
    • 骨が正しい位置でくっつきやすい(高い骨癒合率)
    • 肩の動き・力の回復が早く、仕事やスポーツへの復帰も早い
    • 肩の変形や左右差がほとんどない
  • デメリット
    • 手術による合併症(感染・神経障害・傷あとなど)のリスク
    • 肩周囲のしびれや違和感が残ることがある
    • プレート抜去など、再手術が必要な場合が多い

今回の研究では、手術療法による傷あとやしびれの頻度が比較的高く報告されており、この点は患者さん自身がしっかり理解したうえで治療選択を行うことが重要です。
また、保存療法であっても骨癒合や機能回復は十分可能ですが、日常生活への復帰スピードや左右差など、見た目や生活への影響を気にされる方は手術も積極的に検討されてよいでしょう。


【まとめと医師からのアドバイス】

完全転位・粉砕型鎖骨骨折において、手術療法は高い骨癒合率・早期回復をもたらす一方、肩のしびれやプレート抜去など特有のリスクもあることが、今回の研究で明らかになりました。
保存療法は、手術を望まない方や医療リスクを避けたい方にとって有力な選択肢ですが、変形癒合や回復までの期間が長くなることを理解しておく必要があります。

最終的な治療法は、「自分がどのような生活を送りたいか」「どのリスクを重視するか」によって選ぶことができます。
治療を受ける際は、主治医とじっくり相談し、ご自身に合った最適な方法を一緒に考えていきましょう。


引用論文

Comprehensive comparison between conservative therapy and surgical management for completely displaced and comminuted mid-shaft clavicle fractures.
International Orthopaedics (2024) 48:1871-1877.
https://doi.org/10.1007/s00264-024-06198-1

 

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