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腰椎手術の成功にBMIが影響?術後の骨盤バランスとの意外な関係
BMIが腰椎手術後の姿勢バランスに与える影響とは?800人を調査した最新研究
【腰椎固定術と姿勢バランスの重要性】
腰椎固定術(ようついこていじゅつ)は、変形性腰椎症やすべり症などに対する有効な手術法です。
しかし、術後の姿勢バランス、特に「矢状面(横から見た姿勢)のバランス」が患者の満足度や生活の質に大きな影響を与えることが、近年の研究で明らかになってきました。
この矢状面バランスを評価する際に重要なのが、「骨盤インシデンス(PI)」「腰椎前弯(LL)」「骨盤傾斜角(PT)」などのスピノペルビック(脊椎-骨盤)パラメータです。
特に「PI-LLミスマッチ(PIとLLの差が10度を超える状態)」は、術後の痛みや機能低下と関連しているとされており、適切な術後バランスの維持が求められます。
【BMIが術後のバランスに与える影響】
今回の研究では、2010年から2019年にかけてアメリカの大規模施設で腰椎固定術(1椎間)を受けた832名を対象に、BMIと術後のスピノペルビックバランスの関係が調査されました。
被験者はBMIによって「正常体重(18.5〜24.9)」「過体重(25〜29.9)」「肥満(30以上)」の3つに分類されました。
結果として、BMIが高いほど術前からPT(骨盤の傾き)が大きく、PI-LLミスマッチが多い傾向が見られました。
また、術後2〜3年のフォローアップでも、肥満群ではPI-LLミスマッチ(>10度)とPT>20度が有意に多く見られた**のです。
統計解析の結果、BMIは術後もミスマッチを引き起こす独立した要因**であり、BMIが1ポイント増えるごとに、PI-LLミスマッチのリスクが約6%上昇することが示されました。
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【術前評価と術後予後の関係:肥満への対策】
とはいえ、術後のバランスに最も大きく影響していたのは「術前のPI-LLミスマッチの程度」でした。つまり、BMIよりも手術前の骨盤・脊椎のバランスを把握することが重要だということです。
加えて、肥満の方は骨盤を後ろに傾けて(骨盤後傾)、姿勢を補正する傾向があり、**これが術後のバランス回復を難しくする可能性も指摘されています。
この骨盤後傾は、体重による負荷のために腰や骨盤での代償が難しくなり、下肢(足の筋肉)などに負担をかけることにつながるともいわれています。
そのため、術前に体重を適切に管理し、骨盤・腰椎の状態を正確に評価することが、良好な手術成績と長期的な姿勢バランスの獲得につながります。
【まとめ】
- BMIが高い人は術前から姿勢バランスが崩れている傾向があり、術後の改善も困難になる可能性があります。
- 術後2〜3年でも、肥満群では骨盤傾斜やPI-LLミスマッチの残存が多く見られました。
- ただし、術後の姿勢バランスに最も大きく影響するのは術前のアライメントであり、事前評価が最重要です。
したがって、腰椎固定術を検討している患者さんには、**BMIや体重管理だけでなく、骨盤と脊椎のバランスをきちんと評価することの大切さを伝えることが、整形外科医としての責務です。
今後も肥満と脊椎手術の関係についての研究が進むことで、より最適な術式選択や術前準備が可能となるでしょう。
【参考文献】
Dalton J, Farooqi A, Ezeonu T, et al. *Does BMI impact spinopelvic alignment after lumbar fusion surgery?* Spine. DOI:10.1097/BRS.0000000000005369
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