元気になるオルソペディック ブログ
【整形外科医が解説】上腕二頭筋腱断裂に最適な治療法とその選び方
腕の痛みや力が出ない原因は腱断裂?
【上腕二頭筋長頭腱とは?その役割と断裂の原因】
上腕二頭筋は、肘を曲げたり前腕を回す動作に関わる重要な筋肉です。
この筋肉は「短頭」と「長頭」の2本の腱で構成されており、そのうちの「長頭腱(LHBT)」は肩関節の奥深くから始まっています。
この長頭腱が炎症を起こしたり、部分的あるいは完全に断裂すると、肩の前側に痛みが出たり、力が入りにくくなったりします。
特にスポーツ選手や高齢者に多く見られ、回旋筋腱板(ローテーターカフ)損傷と一緒に起こることも珍しくありません。
症状が軽ければ保存療法(薬物治療やリハビリ)で改善することもありますが、重度の場合は手術が必要となります。
その手術法として主に用いられているのが、「テノトミー」と「テノデーシス」です。
【テノトミーとテノデーシス:手術の違いとその特徴】
● テノトミーとは?
テノトミーは、断裂した長頭腱を肩関節の付着部から切り離すシンプルな手術です。
手術時間が短く、術後の痛みが早く軽減する傾向があります。
ただし、筋肉が下がってしまう「ポパイ変形(力こぶが下に寄る状態)」が起こりやすいという欠点もあります。
● テノデーシスとは?
テノデーシスは、切り離した腱を上腕骨の別の部位に再固定する方法です。
固定にはスクリュー(ネジ)やアンカーといった器具が使われることもあります。
手術はやや複雑で時間がかかりますが、見た目や機能面では優れた結果を残しやすいとされています。
【最新の研究で分かった手術成績の違い】
2022年に発表されたシステマティックレビュー(複数の臨床試験を統合した解析)では、テノトミーとテノデーシスの効果を11件のランダム化比較試験(RCT)から比較しました。
この解析では、以下のような結果が明らかになりました。
● 肘の曲げる力(肘屈曲力)
12ヶ月後の肘屈曲力は、テノデーシスを受けた群の方が約3.7kg強かったことが報告されました。
これは日常生活で物を持ち上げたり、腕を使う動作において大きな利点です。
● 前腕の回旋力(回外力)
同じく12ヶ月後の回外力もテノデーシス群の方が優れていました。
この力は、ドアノブを回す・瓶の蓋を開けるなどの動作で必要な機能です。
● 術後の痛み
術後3ヶ月では、テノトミーを受けた人の方が痛みの軽減が早く見られました。
ただし、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月では両手術の間に明確な差は見られませんでした。
● 見た目の変形(ポパイ変形)
24ヶ月後の経過観察で、テノデーシスの方がポパイ変形の発生率が圧倒的に低い(約5分の1)という結果でした。
これは見た目を気にされる患者さんにとって大きなメリットとなります。
【患者さんが手術法を選ぶ際のポイント】
上記の研究結果から、以下のような判断が参考になります。
● 手術後の見た目や筋力を重視する方には「テノデーシス」がおすすめ
筋力の回復や見た目を気にされる方にとっては、テノデーシスの方が満足度が高いでしょう。
特に若い方やスポーツ復帰を目指す方には有効と考えられます。
● 手術のシンプルさと早期の痛み改善を求める方には「テノトミー」
高齢者やリスクを最小限に抑えたい方、早く痛みを和らげたい方にはテノトミーが適しています。
また、手術時間が短いため、全身への負担も少なくて済みます。
【まとめ:どちらの手術法にもメリットと注意点がある】
最終的には患者さんの年齢、活動レベル、希望、そして医師の判断によって最適な術式が選ばれます。
どちらの術式も適切に行えば、良好な結果を得られることがわかっています。
整形外科医や脊椎外科医としっかり相談し、自分に合った治療法を選びましょう。
参考文献
Vajda M. et al. Tenodesis yields better functional results than tenotomy in long head of the biceps tendon operations--a systematic review and meta-analysis. International Orthopaedics (2022). DOI: 10.1007/s00264-022-05338-9
免責事項
- 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
- 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
- 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
- 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
- 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。
当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。