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肩のケガで多い『肩鎖関節脱臼』とは?治療法と手術のタイミングを徹底解説

【肩鎖関節脱臼とは?症状と重症度分類】

肩鎖関節(けんさかんせつ)とは、鎖骨と肩甲骨(肩の骨)の一部である肩峰(けんぽう)をつなぐ関節です。肩の動きを支える重要な関節ですが、転倒やスポーツでの衝突により脱臼することがあります。

肩鎖関節脱臼自転車.png

この脱臼を「肩鎖関節脱臼」と呼び、特に若いスポーツ選手に多く見られます。怪我の程度は「ロックウッド分類」と呼ばれる6段階の分類で評価されます。

肩鎖関節脱臼術前.jpg

  • タイプI・II:靭帯が部分的に損傷している軽度なもの。
  • タイプIII:完全に靭帯が断裂し、鎖骨が浮き上がる中等度。
  • タイプIV〜VI:鎖骨が大きくズレている重度な脱臼。

痛みや肩の変形、腕の挙上困難などが主な症状で、診断にはX線が使われます。


【保存療法と手術の比較|どちらが良い?】

今回紹介する論文では、肩鎖関節脱臼に対する治療法について、過去の研究を整理した「システマティックレビュー」が行われました。特に以下の3つの観点から治療効果が比較されました。

  1. 手術と保存療法の比較
  2. 手術の時期(早期 vs 遅延)
  3. 解剖学的 vs 非解剖学的な手術手技の違い

● 手術と保存療法の違い

過去の14の研究をもとに、手術群706名と保存療法群369名が比較されました。結果は以下の通りです。

  • 「良好」以上と判断された結果は、手術88%、保存療法86%とほぼ同等。
  • ただし、手術群の方が関節の見た目(解剖学的整復)をより多く達成。
  • 一方で、回復スピード(仕事やスポーツへの復帰)は保存療法の方が早いとされています。

つまり、見た目や整復度を求めるなら手術、早く復帰したいなら保存療法が選ばれる傾向にあります。

肩鎖関節脱臼術後.jpg

● ロックウッド分類ごとの基本方針

  • タイプI・II:保存療法が基本
  • タイプIII:まずは保存療法が推奨され、症状が続く場合は手術も検討
  • タイプIV〜VI:手術が推奨される

【手術のタイミングと手技の選び方】

● 早期手術 vs 遅延手術

4つの研究では、早期(受傷から3週間以内)に手術を受けたグループの方が、結果が良好であることが多いと報告されています。

  • 早期手術群の「良好」以上の結果:91%
  • 遅延手術群の「良好」以上の結果:72%

ただし、これらの研究の多くが「レベルIII」のエビデンス(質がやや低い)であり、今後の高品質な研究が必要とされています

● 解剖学的 vs 非解剖学的手術法

「解剖学的手技」とは、もともとある靭帯(円錐靭帯や台形靭帯)をできる限り元の位置・構造で再建する方法です。これに対し、「非解剖学的手技」は骨の位置関係だけを整える方法です。

以下の結果が示されています:

  • 解剖学的手技での良好な結果:93%
  • 非解剖学的手技での良好な結果:53%

再建靭帯の材質(自分の腱 vs 人工靭帯)による差も検討されていますが、どちらにも長所があります。


【まとめ:現時点での最適な治療戦略とは?】

肩鎖関節脱臼の治療は、患者さんの年齢・活動レベル・脱臼の程度によって異なります。今回の論文から得られるポイントを以下にまとめます。

  • 軽度(タイプI・II):保存療法が第一選択
  • 中等度(タイプIII):まずは保存療法、改善なければ手術
  • 重度(タイプIV〜VI):手術が一般的
  • 手術をするなら、できるだけ早期に行い、靭帯を解剖学的に再建する方法が望ましい

 

引用論文:

Beitzel K, Cote MP, Apostolakos J, et al. Current Concepts in the Treatment of Acromioclavicular Joint Dislocations. Arthroscopy. 2013;29(2):387-397.

 

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