成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

元気になるオルソペディック ブログ

脊椎外科医がやさしく解説!腰部脊柱管狭窄症の矢状面バランスと手術の効果

腰部脊柱管狭窄症MRI.jpg

【はじめに:腰部脊柱管狭窄症と矢状面バランスとは】

 

腰部脊柱管狭窄症は、年齢とともに背骨が変形して神経が圧迫されることで、足のしびれや痛み、歩きづらさが生じる病気です。特に高齢社会では患者数が増加しており、手術による治療も多く選ばれています。

近年では、「矢状面バランス」が手術成績に影響するのではないかと注目されています。矢状面バランスとは、体を横から見たときの背骨や骨盤の前後のバランスを指します。バランスが保たれていれば少ないエネルギーで楽に立ったり歩いたりできますが、崩れると腰痛や疲れやすさが強くなります。


【観点1:矢状面バランスとSchwab分類の基礎知識】

矢状面バランスは、専門的な方法で計測します。主な評価法の一つが**Schwab分類(シュワブ分類)**です。これは矢状面バランスを数値で客観的に評価するために広く使われています。

Schwab分類とは?
Schwab分類は次の三つの指標で評価します。

schwab分類3つ.jpg

  • SVA(Sagittal Vertical Axis:矢状面垂直軸)
    首の付け根(第7頚椎C7)から真下に垂線を引き、その線が骨盤(仙骨)のどの位置にくるかをミリメートル単位で測定します。基準は40ミリ以下が正常とされます。
  • PI-LL(Pelvic Incidence minus Lumbar Lordosis:骨盤傾斜角と腰椎前弯角の差)
    骨盤と腰椎の角度の差で、10度以内であればバランスが良好、10度を超えるとバランスが崩れているとみなされます。
  • PT(Pelvic Tilt:骨盤傾斜角)
    骨盤の傾きの角度で、20度以下が良好とされます。

Schwab分類は、これら三つの指標のどれかが基準を超えていると「矢状面バランスが乱れている」と判断します。
矢状面バランスの評価は、手術の適応や治療方針を決める際に重要な情報になります。


高齢者後彎坐骨神経痛.png

【観点2:矢状面バランス・Schwab分類と腰部脊柱管狭窄症の手術成績】

今回ご紹介する研究では、腰部脊柱管狭窄症の患者さん136人を対象に、顕微鏡を使った低侵襲な除圧手術を行い、その後4年以上の長期にわたり経過観察が行われました。患者さんは手術前の矢状面バランス(Schwab分類も用いて評価)で三つのグループに分けられました。

  • 正常な矢状面バランスグループ(Schwab分類で基準内)
  • 軽度バランス異常グループ
  • 重度バランス異常グループ

各グループで、手術後の痛みや歩行能力、日常生活の支障、生活の質などを1年後と4年以上後に調査しました。その結果、どのグループも手術後に痛みや歩行障害、日常生活の質が大きく改善しました。Schwab分類で矢状面バランスが崩れていても、手術後の改善度や満足度には明らかな違いが見られませんでした。

手術に満足したと答えた割合も、どのグループも70~83パーセントと高く、矢状面バランスの乱れがあっても手術効果に悪影響はありませんでした


【観点3:矢状面バランス異常と手術方法の選び方】

矢状面バランスが乱れている場合、除圧手術だけで十分なのか、それとも固定や矯正を伴う大きな手術が必要なのか、悩まれる方も多いです。

今回の研究では、明らかな不安定性や強い側弯がない限り、矢状面バランスが崩れていても低侵襲な除圧手術だけで十分な効果が得られることが示されました。Schwab分類で矢状面バランス異常と判断される場合でも、固定や矯正を行わなくてもよいケースが多いことが分かりました。

特に高齢者や手術リスクの高い方には、できるだけ体への負担が少ない方法で症状の改善を目指すことが大切です。


【まとめ:腰部脊柱管狭窄症の手術と矢状面バランス・Schwab分類の役割】

高齢者後彎坐骨神経痛改善.png

  1. 矢状面バランス(Schwab分類による評価)が崩れていても、腰部脊柱管狭窄症の除圧手術後には、痛みや歩行能力、日常生活の質が長期的に大きく改善します。
  2. 矢状面バランスの異常の多くは背骨の構造的な変化ですが、手術後の経過や満足度には大きな影響を与えませんでした。
  3. 不安定性や重度の変形がなければ、矢状面バランスが乱れていても、低侵襲な除圧手術のみで十分な効果が期待できます。

矢状面バランスやSchwab分類の結果を知り不安になる方もいらっしゃると思いますが、まずは主治医とよく相談し、自分に合った治療法を選択していきましょう。


【参考文献】

Dinkelbach M, Früh A, Franke J, Ohm K, Pöhlmann F, Hecht N, Vajkoczy P, Bayerl S
Does the Sagittal Balance influence microsurgical results for Spinal Stenosis? a prospective 4 years follow-up
Spine. Publish Ahead of Print. DOI:10.1097/BRS.0000000000005195

 

免責事項

  • 当ブログの内容はブログ管理者の私的な考えに基づく部分があります。医療行為に関しては自己責任で行って頂くようお願いいたします。
  • 当ブログの情報を利用して行う一切の行為や、損失・トラブル等に対して、当ブログの管理者は何ら責任を負うものではありません。
  • 当ブログの内容は、予告なしに内容を変更あるいは削除する場合がありますのであらかじめご了承ください。
  • 当ブログの情報を利用する場合は、免責事項に同意したものと致します。
  • 当ブログ内の画像等は、本人の承諾を得て、個人が特定されないように匿名化して利用させて頂いております。

当ブログでの個別の医療相談は受け付けておりません。