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野球選手必見!トミー・ジョン手術後の復帰期間・成功率・成績の変化とは?

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野球選手の肘のケガで有名な「トミー・ジョン手術」。ピッチャーにとって命ともいえる肘の靱帯を修復する手術ですが、実際に手術を受けた選手はどのくらい復帰できるのでしょうか?そして、手術後の成績はどうなるのでしょうか?

今回、アメリカの研究チームがまとめた最新の論文をもとに、トミー・ジョン手術(正式には尺側側副靱帯再建術)のリアルな実態についてわかりやすく解説します。


【トミー・ジョン手術とは?増え続ける施術件数とその理由】

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トミー・ジョン手術とは、肘の内側にある「尺側側副靱帯(UCL)」を再建する手術です。この靱帯は、投球時にかかる強い外側への力から肘を守る役割があります。

特にピッチャーは、1回の投球で肩や肘にものすごい負担がかかります。プロのピッチャーの肩は、投球時に1秒間で7000度も回転すると言われており、その結果UCLが損傷することがあります。

近年、若年層でも手術件数が急増しており、15~19歳の高校生年代が最も多く受けています。その理由は、過度な投球数や休養不足、さらにピッチングフォームの問題が指摘されています。

また、30%の選手、20%のコーチ、44%の親が「トミー・ジョン手術をすればパフォーマンスが上がる」と誤解していることも、手術件数増加の一因と考えられています。


【復帰率は高いが、成績や投球数は減少】

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気になる復帰率(RTP:Return To Play)は、プロ野球選手でも80%~97%と高い数字になっています。手術後、約12か月で実戦復帰する選手が多いようです。

しかし、以前と同じレベルでプレーできる「元のレベルへの復帰率(RTSP)」は67%~87%に下がり、平均15か月ほどかかることがわかっています。

さらに、リハビリ後も投球回数や球数は減少傾向にあり、「ファストボール(速球)の使用率」も減るケースが多いのが現実です。手術後は、肘への負担を減らすために投球内容を見直す選手が多いのです。

また、成績面では防御率(ERA)や被安打率(WHIP)などに大きな変化は見られず、術前とほぼ同等か、むしろ良くなる場合もありました。


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【キャッチャーは特に復帰が難しいポジション】

ポジション別で見ると、ピッチャーに次いでキャッチャーが手術を受けるケースが多くなっています。しかし、復帰率はキャッチャーが最も低く、59%~80%にとどまります。

キャッチャーは試合中に何度も送球し、さらに盗塁を阻止するためには素早く、強いスローイングが必要です。そのため、復帰後も肘に大きな負担がかかりやすく、復帰しづらいポジションなのです。

一方、内野手の復帰率は76%、外野手は89%と高く、復帰後の成績にも大きな差は見られませんでした。


【まとめ】野球投手剛速球.jpg

トミー・ジョン手術は「野球選手のキャリアを救う手術」として広く行われています。プロ選手の8割以上が手術後に復帰し、元のレベルでプレーできる選手も7割近くいます。

しかし、復帰までには約1年、元のレベルまで戻すにはさらに時間がかかること、そして投球数や球速にも影響が出る可能性があることを知っておく必要があります。

特にキャッチャーは復帰率が低いため、より慎重なリハビリと再発予防が大切です。若年層の手術も増えている今、投球制限やフォームの見直しなど、予防にも力を入れていく必要があるでしょう。

この情報が、選手や保護者、指導者のみなさんの正しい知識につながれば幸いです。

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【引用論文】

Stephen J. Thomas, et al. "Return-to-Play and Competitive Outcomes After Ulnar Collateral Ligament Reconstruction Among Baseball Players: A Systematic Review." Orthopaedic Journal of Sports Medicine 8(12), 2020. DOI: 10.1177/2325967120966310

 

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