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脳と脊髄の刺激でリハビリ効果アップ?科学が証明する歩行回復の新アプローチ

 

脳と脊髄を刺激して歩行を回復?最新リハビリ技術の可能性

【1. 脊髄損傷による歩行障害とリハビリの課題】

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脊髄損傷画像.jpg

脊髄損傷(SCI)は、事故や病気によって脊髄がダメージを受けることで発生します。これにより、運動機能や感覚機能が失われ、特に下肢の麻痺や歩行障害が深刻な問題となります。

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現在、SCIのリハビリには、理学療法(PT)や電気刺激療法、ロボット支援歩行訓練(RAGT)などが活用されています。しかし、従来の方法では完全な回復は難しく、患者の負担も大きいのが現状です。そこで、注目されているのが**非侵襲的な脳および脊髄刺激(NIBS/NISCS)**という新しいリハビリ技術です。

【2. 非侵襲的な脳・脊髄刺激とは?】

NIBS/NISCSは、外科的な手術を行わずに脳や脊髄を刺激し、神経回路の可塑性を高める方法です。具体的には、以下のような技術が研究されています。

経頭蓋磁気刺激(rTMS)

磁場を利用して脳の運動野を刺激し、神経細胞の活動を促進する方法です。高頻度(20Hz)のrTMSを15〜24回実施すると、下肢の運動機能が向上することが確認されています。

経頭蓋直流電気刺激(tDCS)

微弱な電流を脳に流し、神経の興奮性を調整する方法です。rTMSと比較すると効果は小さいものの、手軽で安全な治療法として注目されています。

経皮的脊髄刺激(tSCS)

脊髄に電気刺激を与えることで、歩行時の神経回路を活性化させる技術です。特にT11〜T12の脊髄領域に50Hzの刺激を加えると、歩行速度が向上することが示されています。

経皮的脊髄直流電気刺激(tsDCS)

脊髄に微弱な直流電流を流すことで、神経回路の興奮性を調整します。しかし、現在の研究では運動機能の大きな改善は見られていません

【3. 研究結果から見るリハビリの可能性】

最新の研究では、これらの技術をSCI患者に適用し、歩行機能や運動能力の改善が見られるかどうかを検証しました。

研究の概要

  • **12件のランダム化比較試験(RCT)**を解析
  • 341人のSCI患者を対象に、NIBS/NISCSの効果を検証
  • 歩行能力の評価には「下肢運動スケール(LEMS)」や「10m歩行テスト(10MWT)」を使用

研究結果

刺激法

効果

コメント

rTMS

大きい(LEMS向上)

15〜24回の施術で運動機能が大幅に改善

tDCS

小〜中程度

効果には個人差があるが一定の改善あり

tSCS

大きい(歩行速度向上)

50Hzの刺激が歩行能力向上に有効

tsDCS

効果なし

さらなる研究が必要

この結果から、特にrTMSとtSCSがSCI患者の運動機能回復に有望であることが分かります。

【4. 今後の課題と展望】

課題① 長期的な効果の検証

現時点では、多くの研究が短期間(数週間〜数ヶ月)での効果のみを検証しています。長期的な効果や持続性を明らかにするために、1年以上の追跡調査が必要です。

課題② 最適な刺激パラメータの確立

どの刺激法が最も効果的なのか、また、刺激の強さや頻度、施術回数をどのように調整すべきかはまだ明確になっていません。個々の患者の状態に応じた最適なプロトコルを確立することが今後の課題です。

課題③ 臨床応用への課題

現在の研究は実験的な段階にあり、病院やリハビリ施設で一般的に使われるにはさらなる臨床試験が必要です。また、機器のコストや保険適用の問題も解決すべきポイントです。

【5. まとめ】

SCI患者の歩行回復を支援する非侵襲的な脳・脊髄刺激技術は、今後のリハビリの大きな可能性を秘めています。特に、

  • rTMSは運動機能の改善に有効
  • tSCSは歩行速度向上に期待できる
  • tDCSの効果は個人差があり、さらなる研究が必要

という点が明らかになりました。

現在は研究段階ですが、今後の技術革新と臨床応用が進めば、SCI患者のリハビリに革命をもたらす可能性があります。未来のリハビリに向けて、さらなる研究が期待されます。


参考文献 Hernandez-Navarro et al. Non-invasive cerebral and spinal cord stimulation for motor and gait recovery in incomplete spinal cord injury: systematic review and meta-analysis. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation (2025) 22:53. DOI: 10.1186/s12984-025-01557-4

 

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