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腰痛の4人に1人は仙腸関節障害?知られざる原因と最新運動療法
【仙腸関節障害とは?腰痛の意外な原因】
「どこに行っても腰痛の原因がわからない...」
そんな悩みを抱える方に、最近注目されているのが【仙腸関節障害】です。
仙腸関節は、背骨の一番下にある「仙骨」と、骨盤の「腸骨」をつなぐ関節です。
体の中心で体重を支えながら、上半身と下半身の動きをスムーズに伝える大事な役割を担っています。
驚くことに、腰痛患者さんの約24%、つまり4人に1人がこの仙腸関節のトラブルが原因ともいわれています。
しかも、この障害は年齢や性別を問わず、誰にでも起こる可能性があるのです。
特徴的な症状は「お尻の奥の痛み」や「足の付け根の痛み」。
座っていると痛いのに、正座だと楽になる場合も要注意です。
また、ひどくなると歩行時に力が入らず、脱力感が出ることもあります。
【仙腸関節の役割と障害が起こる理由】
仙腸関節は、わずかにしか動かない関節ですが、その小さな動きで上半身の重みや歩く時の衝撃を吸収する重要なパーツです。
この「小さな動き」があるからこそ、人間はスムーズに歩いたり、スポーツができたりするのです。
しかし、その反面、負担が大きく、ズレやすい場所でもあります。
重い荷物を持ったり、繰り返しの動作を続けることで関節のかみ合わせが悪くなり、「ズレ」が生じます。
このズレが、仙腸関節の後ろを走る神経を刺激し、強い痛みを引き起こします。
ズレたままの状態が続くと、関節に炎症が起こり、慢性腰痛へと進行するのです。
仙腸関節障害の診断には、「仙腸関節スコア」という専用の評価方法を使います。
6つのチェックポイントでスコアをつけ、4点以上なら仙腸関節障害の可能性が高まります。
承知しました!以下に「仙腸関節スコア」を表形式でまとめました。患者さんや一般読者にもわかりやすく整理しています。
【仙腸関節スコア 早見表】
チェック項目 |
内容・評価基準 |
判定(〇:陽性/×:陰性) |
① 仙腸関節部の圧痛 |
お尻の奥(PSIS周辺)を押して「ズーン」と響く痛みがある |
〇 / × |
② 痛みの広がり(放散痛) |
鼠径部(足の付け根)や太もも後面、膝の外側まで"だるい痛み"が広がる |
〇 / × |
③ 片足立ちテスト |
痛い側の足で片足立ちした際に痛みが出る |
〇 / × |
④ Gaenslen(ガンスレン)テスト |
股関節を広げる動作で腰・お尻に痛みが出る(仰向けで片膝を抱え、反対脚を下ろす) |
〇 / × |
⑤ 立ち上がりテスト |
椅子から立ち上がる際に痛みが強くなる |
〇 / × |
⑥ 階段昇降テスト |
階段の上り下りで痛みが増す(特に痛い側の脚で踏み込んだ時) |
〇 / × |
【診断基準】
- 各項目1点(〇なら1点)
- 合計 4点以上 ⇒ 仙腸関節障害(SIJD)疑いが強い
- 感度:90.3%
- 特異度:86.4%
- ブロック注射(仙腸関節ブロック)で痛みが70%以上軽減すれば確定診断
【仙腸関節障害は運動療法で改善できる】
仙腸関節障害の治療で一番大切なのは、【運動療法】です。
その理由は、仙腸関節を安定させる「筋肉の力」が症状の改善に直結するからです。
仙腸関節を支える力には2つの仕組みがあります。
1つ目は【Form Closure(フォームクロージャー)】といって、関節の形そのものによる安定です。
2つ目が【Force Closure(フォースクロージャー)】と呼ばれる、筋肉による支えです。
特に重要なのが、お腹の奥にある【腹横筋】という筋肉です。
この筋肉がしっかり働くことで、仙腸関節のズレを防ぎ、痛みを抑えることができます。
腹横筋は「インナーマッスル」とも呼ばれ、意識して使うのが難しい筋肉ですが、鍛えることで驚くほど症状が軽くなるケースが多いのです。
【代表的な運動療法】
● ドローイン(お腹をへこませるトレーニング)
● ピラティスや体幹トレーニング
● 股関節やお尻の筋肉を鍛えるエクササイズ
これらを組み合わせることで、仙腸関節の安定性が高まり、痛みの予防・改善につながります。
また、骨盤ベルトの併用も効果的で、運動療法の効果を高めてくれます。
ただし、使い方を間違えると逆効果になるため、医師や理学療法士の指導のもと、正しく活用しましょう。
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【仙腸関節と腰痛・股関節の意外な関係】
仙腸関節障害は単独で起こるだけでなく、腰や股関節の病気と合併することも少なくありません。
たとえば、腰の手術後に仙腸関節障害が起こるケースや、股関節の病気の後に悪化することもあります。
また、女性の場合は「恥骨結合」の不安定さが加わり、仙腸関節障害を引き起こすことも。
こうした背景から、仙腸関節だけを診るのではなく、腰や股関節など、全身のバランスを考えた診察・治療がとても重要になってきます。
最近では「Hip-Spine Syndrome(ヒップスパイン症候群)」といって、股関節と背骨の問題が連動していることもわかってきました。
仙腸関節は、そのちょうど中間にあり、両者の不調が仙腸関節障害につながることもあるのです。
【まとめ】
● 腰痛の約4人に1人は仙腸関節障害が原因と言われています。
● お尻の奥や足の付け根の痛みが出るのが特徴。長引く腰痛は一度疑ってみましょう。
● 治療のカギは【運動療法】。腹横筋を中心とした体幹トレーニングが効果的です。
● 骨盤ベルトの併用や、正しい運動の継続で、再発防止にもつながります。
● 腰・股関節との関連にも注意し、総合的な診療が重要です。
もし、どこへ行っても「原因不明の腰痛」と言われた方は、一度「仙腸関節障害」の可能性を考えてみてください。
運動療法を中心とした治療で、痛みのない生活を取り戻しましょう!
【参考文献】
黒澤大輔. 解剖とバイオメカニクスに基づいた仙腸関節障害の運動療法. 第32回日本腰痛学会 ランチョンセミナー9講演資料. 2024年.
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