成尾整形外科病院

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椎体置換を行わない低侵襲側方固定(LIF)を用いた骨粗鬆症性椎体骨折の治療~九州MIST研究会~

【骨粗鬆症性椎体骨折とは?】

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骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)は、骨がもろくなることで脊椎の骨が潰れてしまう病気です。特に高齢者に多く、背中や腰に強い痛みを引き起こします。重症化すると姿勢が悪くなったり、歩行が困難になったりすることもあります。

OVFは、転倒などの外傷がきっかけで発生しますが、日常の動作や軽い負荷でも骨折することがあります。治療には保存療法(コルセットや安静)が一般的ですが、痛みが強い場合や骨折が進行してしまう場合には手術が検討されます。

【LIF(側方椎体間固定術)による治療のメリット】

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LIF(Lateral Interbody Fusion:側方椎体間固定術)は、側方(横)から脊椎にアプローチする手術方法です。従来の手術では背中からアプローチする方法が主流でしたが、LIFは横からアプローチするため、以下のようなメリットがあります。

  1. 低侵襲手術で体への負担が少ない
    LIFは背中の筋肉や神経を大きく傷つけることなく手術ができるため、術後の回復が早いのが特徴です。
  2. 安定した固定が可能
    LIFでは大きな椎間スペーサー(人工の骨やケージ)を挿入し、最も終板で硬いrimの部分で支えますので、骨の癒合を促進します。これにより、骨折した部位がしっかりと固定され、長期的な安定性が確保されます。
  3. 痛みの改善が期待できる
    圧迫されていた神経が間接除圧で解放されることで、痛みやしびれなどの神経症状が軽減される可能性があります。

【従来の治療法(BKPなど)との比較】

これまでOVFの治療には、バルーン椎体形成術(BKP)や椎体置換術が行われてきました。それぞれの治療法とLIFの違いを比較してみましょう。

バルーン椎体形成術(BKP)との違い

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BKPは、圧迫骨折した椎体内にバルーンを挿入して空間を作り、そこに骨セメントを流し込む方法です。短時間で手術が終わるメリットがありますが、以下のようなリスクがあります。

  • 再骨折のリスク:骨セメントが硬くなりすぎると、隣接する骨に負担がかかり、再骨折のリスクが高まります。
  • 骨の変形が残る可能性:骨の高さを完全には回復できないことがあり、後湾が残存し背部痛が残存することがあります。また終板や椎間板損傷に伴う腰痛が継続する可能性があります。

これに対し、LIFは椎間スペーサーを用いるため、より後弯の矯正と椎間不安定性を解除することでより安定した固定が可能です。

BKPの適応の限界

BKPは低侵襲な治療法ですが、すべての骨粗鬆症性椎体骨折に適応できるわけではありません。特に以下のケースでは、BKPの効果が限定的またはリスクが高まる可能性があります。

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  • 椎体の不安定性が強い場合: BKPでは骨セメントを注入して椎体を補強しますが、骨折部の不安定性が強い場合には、再び潰れてしまうリスクがあります。特に、椎体の角度変形が14°以上ある場合には、BKP後の安定性が低くなると報告されています。
  • 終板(椎体の上部・下部)が損傷している場合: 終板が損傷していると、骨セメントが適切に固定されず、BKPの効果が十分に得られない可能性があります。
  • 骨セメントの漏出リスクが高い場合: 骨セメントが適切に定着しないと、椎体外へ漏れ出し、神経障害や血管障害を引き起こす危険性があります。特に、骨折部の亀裂が大きい場合には、セメント漏出のリスクが高まります。
  • Split型の骨折(骨折部が分離している状態): BKPでは一体化した骨の補強が求められますが、Split型の骨折では骨セメントを注入しても、分離した骨片が安定せず、持続的な痛みや再骨折の原因となることがあります。

【BKPとLIFを組み合わせた手術の有効性】

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BKPとLIFを組み合わせた手術は、OVFに対する有効な治療戦略の一つです。この手法は、BKPによる椎体の補強とLIFによる安定した固定を組み合わせることで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 即時的な痛みの軽減
    BKPによる骨セメントの注入により、術後すぐに痛みの軽減が期待できます。
  2. 長期的な安定性の確保
    LIFを併用することで、骨癒合を促進し、再骨折のリスクを低減できます。
  3. 姿勢の改善と機能回復
    BKP単独では難しい姿勢の矯正も、LIFを併用することで可能になります。

このように、BKPには適応の限界があり、骨折の形態や安定性を考慮して治療法を選択することが重要です。BKPが適さないケースでは、LIFのような安定性を追加することで良好な治療成績が報告されています。

【高齢者におけるLIFの利点】

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高齢者では、椎体置換術は出血や手術時間の延長など大きな侵襲を伴うため、手術後の回復に時間がかかることが問題となります。そのため、LIFを用いることで、より低侵襲かつ効果的な治療を実現できます

  1. 椎体置換術に比べて手術侵襲が少ない
    LIFでは椎体そのものを置換するのではなく、椎間スペーサーを挿入して骨癒合を促進するため、手術時間が短縮され、出血量も少なく抑えられます。
  2. 高齢者の回復を早める
    低侵襲手術であるLIFは、筋肉や神経の損傷を最小限に抑えるため、術後のリハビリが早く開始でき、高齢者のQOL(生活の質)を維持しやすくなります。
  3. 合併症リスクの低減
    椎体置換術は大がかりな手術であり、感染症や血栓などの合併症リスクが高まりますが、LIFはより安全なアプローチを提供できます。

このように、高齢者に対してLIFを用いることは、手術侵襲を抑えつつ、安定した固定を確保する有効な治療選択肢となります。

 

まとめ

OVF脊柱再建術.JPG

BKPだけでは対応できない、OVFに対してLIFを追加した骨粗鬆症性椎体骨折の治療は、従来の方法と比べて椎体置換術より体への負担が少なく、安定した固定が可能な方法です。特に、再骨折のリスクを抑えつつ、痛みを軽減できる点が大きなメリットといえます。

また、BKPは低侵襲な治療法として有効ですが、適応の限界がありますのですべてのOVFに対しては適応できません。

高齢者の骨粗鬆症性骨折は、適切な治療を受けることで生活の質を維持できます。LIFを含めた最新の治療法について、気になる方は整形外科専門医に相談してみることをおすすめします。

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九州MIST研究会で発表した「椎体置換を行わないLIFを用いた骨粗鬆症性椎体骨折の治療」を一般向けに解説しました。

引用論文

  • Takahashi, S.et al. (2019). Characteristic radiological findings for revision surgery after balloon kyphoplasty. Scientific Reports, 2019.
  •  
  • Fukuda, Kentaro, et al. "Minimally invasive anteroposterior combined surgery using lateral lumbar interbody fusion without corpectomy for treatment of lumbar spinal canal stenosis associated with osteoporotic vertebral collapse." Journal of Neurosurgery: Spine 35.2 (2021): 154-162.
  • Tani, Yoichi, et al. "A triple minimally invasive surgery combination for subacute osteoporotic lower lumbar vertebral collapse with neurological compromise: a potential alternative to the vertebral corpectomy/expandable cage strategy." Neurosurgical Focus 54.1 (2023): E10.
  • Nakashima, Hiroaki, et al. "Comparative study of 2 surgical procedures for osteoporotic delayed vertebral collapse: anterior and posterior combined surgery versus posterior spinal fusion with vertebroplasty." Spine (Phila Pa 1976) 40.2 (2015): E120-E126.​
  • Nakashima, Hiroaki, et al. "Transdiaphragmatic approach as a novel less invasive retroperitoneal approach at thoracolumbar junction: comparison with conventional diaphragmatic incision." Spine Surgery and Related Research 2.4 (2018): 276-282.
  • 中島宏彰ほか.「胸腰椎移行部破裂骨折に対する前方除圧椎体置換術」『臨床整形外科』第55巻第7号、2020年、811-817
  • 岡田二郎ほか.「胸腰椎破裂骨折に対する手術方法の検討(前方除圧固定術と後方固定術の比較)」『整形外科と災害外科』第62巻第3号、2013年、492-497頁

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