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「野球肩」の真実!投手の肩に起こる慢性的な変化とケガ予防の最新知見
【投手の肩に起こる慢性的な変化とは?】
野球の投手は、長年の投球によって肩にさまざまな適応が生じます。この適応は、関節の可動域や筋肉の硬さ、骨の形状の変化など多岐にわたります。本記事では、最新の研究を基に、投手の肩がどのように変化するのか、そしてその影響について解説します。
研究によると、投手の利き腕の肩は、非投球側と比べて外旋(外向きに回す動き)の可動域が増加し、内旋(内向きに回す動き)の可動域が減少することが分かっています。しかし、この変化の原因が骨の適応なのか、筋肉や靭帯の硬さなのかを明確にするために、最新の研究では「骨性内旋制限(GIRD)」と「骨性外旋増加(ERG)」を考慮するようになっています。
【骨と筋肉の影響を分けて考える】
従来、投手の肩では「内旋可動域の低下(GIRD)」が問題視されてきました。しかし、最新の研究では、骨の適応によって内旋可動域が減少しているのではなく、むしろ外旋可動域の制限こそが重要な問題であることが示唆されています。
長年の投球によって、投球腕の上腕骨(肩の骨)は「後捻(こうねん)」と呼ばれる変化を起こします。これは、成長期に繰り返し投球動作を行うことで、骨のねじれが生じる現象です。この後捻が起こると、肩関節の外旋可動域は増加しますが、同時に内旋可動域は減少します。そのため、投手の肩では単純に内旋の可動域が減るのではなく、「外旋の可動域が骨の変化に比べて十分に確保されていない」ことが問題になるのです。
実際に、研究では「内旋の可動域は骨の影響を除外すると問題にならないが、外旋の可動域が制限されることがケガのリスクを高める」と報告されています。
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【肩の可動域とケガのリスク】
肩の可動域が十分に確保されていない投手は、肩や肘のケガのリスクが高まることが分かっています。特に、外旋の可動域が不足している投手は、肩のケガをするリスクが2.2倍、手術が必要になるリスクが4.4倍にもなると報告されています。
また、肩の関節が適切に動かないと、その負担が肘にかかり、肘の靭帯損傷(トミー・ジョン手術が必要になるケース)につながることもあります。そのため、投手は肩の柔軟性を適切に保つことが重要です。
トレーナーや医師は、投手の肩の可動域を定期的に測定し、必要に応じてストレッチやリハビリを行うことで、ケガのリスクを減らすことができます。特に、外旋可動域が制限されている場合は、大胸筋や広背筋の柔軟性を高めるエクササイズが有効です。
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【まとめ】
投手の肩は、長年の投球によって骨や筋肉に適応が生じます。従来は内旋の可動域の低下が問題視されていましたが、最新の研究では「外旋の可動域が十分に確保されていないこと」がケガのリスクを高めることが明らかになっています。
投手の肩の健康を守るためには、単に内旋可動域を増やすのではなく、外旋可動域を適切に確保することが重要です。ストレッチや筋力トレーニングを適切に行い、定期的に肩の状態をチェックすることで、ケガを予防しながら長くプレーを続けることができるでしょう。
【参考文献】
Paul RW, Sirch FR, Vata A, et al. Chronic Adaptations of the Shoulder in Baseball Pitchers: A Systematic Review. The American Journal of Sports Medicine. 2025. DOI: 10.1177/03635465251317202
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