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急性脊髄損傷の最新AOガイドライン解説|早期除圧術と循環管理のポイント
【はじめに】脊髄損傷治療はガイドラインでここまで進化した
脊髄損傷(SCI)は運動・感覚・自律神経障害をもたらし、生命予後やQOLに大きく影響します。近年、エビデンスの蓄積とともに「手術のタイミング」や「血行動態管理」「術中脊髄損傷(ISCI)対策」の重要性が強調されています。
2024年に発表された『脊髄損傷AOspineガイドライン』では、これら3つの視点から診療の標準化を図るための指針がまとめられています。本記事では、医療従事者向けに最新知見をわかりやすく解説します。
【急性期治療の要】早期除術の推奨とそのエビデンス
急性脊髄損傷では、持続する脊髄圧迫が二次損傷を引き起こし、予後を悪化させます。早期の外科的除圧が神経学的改善につながるとするエビデンスが増えており、ガイドラインでも以下の通り強く推奨されています。
◼️【推奨】24時間以内の早期手術
- 対象:すべての成人SCI患者(レベル・重症度問わず)
- グレード:エビデンス中等度/強い推奨
- 根拠:ASIA Motor Score、AIS2グレード以上改善の可能性(6〜12か月追跡)
◼️【超早期(4〜8時間以内)手術のエビデンス】
- 現状では十分な根拠は得られておらず、推奨は控えられています
- さらなる研究が必要とされています
◼️【実臨床でのポイント】
- 脊髄損傷疑いでは、直ちに専門施設への搬送
- 中間施設立ち寄りは手術遅延要因となるため最小限に
- 特に頸髄損傷や圧迫所見が強い場合は迅速な判断が必要
【循環管理】MAP管理の重要性と最新ターゲット
脊髄損傷後は、神経原性ショックや低血圧による二次虚血が大きな問題となります。特に受傷直後7日間は、脊髄周囲組織への血流維持が神経保護の観点から重要です。
◼️【推奨】MAP 75〜80mmHg以上、最大90〜95mmHg維持
- グレード:エビデンス低/弱い推奨
- 期間:受傷後3〜7日間
- 方法:バソプレッサー(ノルアドレナリン、フェニレフリンなど)による管理
◼️【注意点】過度な昇圧のリスク
- 心筋障害、不整脈、皮膚壊死などのリスク増加
- フェニレフリンで有害事象40%、ドパミン使用では76%と報告
◼️【SCPP管理の可能性】
- Spinal Cord Perfusion Pressure(SCPP)評価は有効な可能性
- ただし髄内圧モニターは侵襲的で感染リスクあり
- 現時点での臨床適用は限定的
【術中脊髄損傷(ISCI)対策】モニタリングと管理の最新知見
近年、脊椎手術中に発生するISCIが注目されています。発症すれば不可逆的な麻痺を残す可能性が高いため、予防・早期発見が極めて重要です。
◼️【ISCIの原因】
- 直接の器械的損傷(除圧操作・矯正操作)
- 血流遮断(虚血)
- 硬膜外血腫や感染
◼️【推奨】高リスク患者へのIONM(術中神経モニタリング)導入
- グレード:エビデンス低/強い推奨
- 使用モダリティ:
- SSEP(感覚):感度67.5%、特異度96.8%
- MEP(運動):感度90%、特異度95.6%
- EMG(末梢神経):感度48.3%、特異度92.9%
- マルチモーダル(MIONM)推奨:感度91%、特異度93.8%
◼️【リスク評価と対応策】
- リスク因子:高齢、男性、重度変形、矯正手術、既存の神経障害
- IONMアラート時の標準対応:
- MAP増強
- 矯正力緩和・位置修正
- メチルプレドニゾロン投与
- 出血・貧血補正
【まとめ】脊髄損傷診療はエビデンスに基づく判断が重要
2024年版ガイドラインでは、以下3つの視点が強調されています。
✅1. 外科的除圧は24時間以内が推奨
- 神経機能改善率向上
- 長期合併症(褥瘡・呼吸障害)減少の可能性
2. 血圧管理(MAP 75〜95mmHg)
- 神経保護目的
- 副作用管理も重要
3. ISCIの予防と早期対応
- IONMを積極的に活用
- ハイリスク患者の事前評価とチームアプローチ
SCIやISCIは診療連携と標準化が不可欠です。本ガイドラインを活用し、質の高い医療提供を目指しましょう。
【引用文献】
Tetreault LA, Kwon BK, Evaniew N, et al. A Clinical Practice Guideline on the Timing of Surgical Decompression and Hemodynamic Management of Acute Spinal Cord Injury and the Prevention, Diagnosis, and Management of Intraoperative Spinal Cord Injury. Global Spine J. 2024;14(3S):10S-24S. doi:10.1177/21925682231183969
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