成尾整形外科病院

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熊本そけいヘルニア整形外科クリニック

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腰の手術後も痛みが残る?股関節・膝関節の重度変形が回復を左右する!

 

【腰部脊柱管狭窄症と変形性関節症の"見逃せない関係"】

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高齢者に多く見られる「腰部脊柱管狭窄症」は、神経が圧迫されて腰痛や足のしびれを引き起こす病気です。手術で症状の改善が期待できますが、思ったほど回復しない方がいるのも事実です。

実はその陰に、股関節や膝関節の"変形性関節症が隠れていることがあるのです。この研究では、重度の股関節または膝関節の変形が、腰の手術後の痛みや生活の質にどのように影響するのかを調べました。

研究では、121人の腰部脊柱管狭窄症の手術患者を対象に、術前および術後1年の症状を評価。そのうち約55%の人に、股関節または膝関節の重度変形(Kellgren-Lawrence分類でグレード3または4)が認められました。

重度の関節症を持つ患者では、手術後も腰や脚の痛みが残りやすく、歩行能力や社会生活への支障も大きかったのです。これは手術の成績に直結する重要な情報です。

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【手術後の痛みや生活の質にどう影響するのか?】

この研究では、患者が感じる痛みや生活の質を数値で表す「患者報告アウトカム(PROMs)」を用いて評価しました。具体的には次の3つの指標です

  • VAS(視覚的疼痛スケール):痛みの強さを0〜10で自己評価する方法
  • JOABPEQ(日本整形外科学会腰痛評価質問票):腰痛による生活への影響を評価する質問票
  • ODI(オズウェストリー障害指数):日常生活にどれほど支障があるかを示す指標

重度の股関節または膝関節の変形がある人は、これらすべてのスコアで術後も改善が乏しい傾向にありました。

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例えば、手術後に「痛みが半分以下になった」と感じた人の割合は、重度OA群で約49%だったのに対し、非OA群では75%前後と大きな差がありました。

また、JOABPEQの「歩行能力」や「社会生活機能」などの項目でも、改善を実感できた人の割合が、重度OA群で著しく低い結果となりました。


【手術後の姿勢バランスや合併症にも影響】

この研究では、「術後の姿勢」や「背骨と骨盤の整合性(スピノペルビックアライメント)」についても詳しく分析しています。

重度OA群では、手術後1年経っても**前屈み(体幹前方偏位:SVA)が強く残り、さらに体の左右バランスの崩れ(C7-CSVL)**も悪化していました。

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これは、股関節や膝の関節が硬くなり、腰のバランスを取るための代償動作ができなくなることが原因と考えられます。

加えて、インプラント(人工骨やネジなど)の不具合も多く、重度OA群では10.5%の人に問題が生じていました(非OA群は1.9%)。

このように、単に"腰の病気"と考えて治療を行うだけでは不十分で、下肢の関節の状態までしっかりと評価し、手術前に対応を考える必要があるのです。


【今後の腰痛治療に求められる"全身的視点"】

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この研究から得られる最大の教訓は、**「腰だけでなく、下肢の関節にも目を向けることが重要」**という点です。

「ヒップ・スパイン症候群」や「ニー・ヒップ・スパイン症候群」といった言葉が医学の世界でも使われるようになり、腰と下肢の関節の連動性が強く意識されるようになっています。

今後、腰部脊柱管狭窄症の手術を計画する際には、事前に股関節や膝関節の状態を**画像検査(レントゲン)でしっかりと評価し、場合によっては先に股関節や膝関節の治療・手術を検討することも重要となるでしょう。

また、術後に「思ったより良くならなかった...」という声があった場合には、腰の再評価だけでなく、股関節・膝関節の進行した関節症が影響していないかも確認すべきです。


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【まとめ】

  • 腰部脊柱管狭窄症と変形性関節症は密接に関係しています。
  • 股関節や膝関節の重度変形があると、腰の手術後の痛みや生活の質が改善しにくくなります。
  • 姿勢のバランスやインプラントの安定性にも悪影響が出やすいため、手術前の全身評価が必要です。
  • 「腰だけを見る」のではなく、「体全体を見る医療」がこれからの時代に求められます。

参考論文

Tamagawa S, Nojiri H, Teramoto J, et al. Impact of Severe Hip and Knee Osteoarthritis on Patient-Reported Outcomes and Global Alignment Following Lumbar Spinal Stenosis Surgery. Spine. Accepted for publication, 2025.

 

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