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骨折を防ぐには?スウェーデンの大規模研究が明かす治療の現実
【骨粗しょう症治療の現実:骨折予防薬の効果と課題とは?】
【骨粗しょう症と脆弱性骨折の現状】
骨粗しょう症は、骨がもろくなり骨折しやすくなる病気です。特に高齢者では、転倒などの軽い衝撃でも骨折につながることがあり、これを「脆弱性骨折」と呼びます。世界では年間約900万件の脆弱性骨折が発生し、ヨーロッパでは年間350万件もの骨折が骨粗しょう症に関連しているとされています。特にスウェーデンは骨折率が高く、50歳以上の女性の46%、男性の28%が生涯のうちに脆弱性骨折を経験するといわれています。
脆弱性骨折の中でも特に注意が必要なのが「大腿骨近位部骨折(いわゆる股関節の骨折)」です。この骨折を起こすと、生活の質が大きく低下し、1年以内の死亡率が約30%に達すると報告されています。つまり、骨折予防は命を守るために非常に重要なのです。
【骨吸収抑制剤の効果と課題】
骨粗しょう症の治療には、骨の破壊を抑える「骨吸収抑制剤(抗骨吸収薬)」がよく使われます。代表的な薬剤にはビスフォスフォネート製剤(アレンドロネートやリセドロネート)、デノスマブなどがあります。これらの薬は、骨密度を増やし骨折のリスクを低減することが、数多くの臨床試験で証明されています。
しかし、実際の医療現場では、これらの薬を適切に服用している患者は意外に少ないのが現状です。スウェーデンで行われたSTORM(Stockholm Real World Management)研究によると、脆弱性骨折を起こした50歳以上の患者のうち、1年以内に抗骨吸収薬の治療を受けたのはわずか10%程度でした。これは、治療の必要性が十分に伝わっていないことや、患者の服薬継続率が低いことが影響している可能性があります。
また、STORM研究では、抗骨吸収薬を使用している患者は、骨折リスクが大きく減少するという明確な結果は得られませんでした。しかし、「骨折+死亡率」を指標とした場合、抗骨吸収薬を服用している患者のリスクは低下していました。これは、骨折予防以外にも、これらの薬が寿命を延ばす可能性を示唆する興味深い結果です。
【今後の治療の展望と課題】
骨折を予防するためには、薬の服用だけでなく、総合的な対策が重要です。たとえば、
- カルシウムやビタミンDの摂取:骨の健康を維持するために、日々の食事やサプリメントで補うことが推奨されます。
- 運動習慣の改善:ウォーキングや軽い筋トレを取り入れることで、骨を強くし、転倒を防ぐことができます。
- 骨密度測定の定期的な受診:骨粗しょう症の診断にはDXA(デキサ)法による骨密度測定が有効であり、特に高齢者は定期的に検査を受けることが望ましいです。
- 治療の継続:抗骨吸収薬の効果を十分に得るためには、医師の指示に従い、定期的に服用することが重要です。
スウェーデンでは2020年から新しい骨粗しょう症治療ガイドラインが導入され、骨折後の患者のフォローアップ体制が強化されました。これにより、骨折後の患者が適切な治療を受ける機会が増え、骨折リスクが低下することが期待されています。
【まとめ】
骨粗しょう症による脆弱性骨折は、放置すると生活の質を大きく低下させ、死亡リスクも高まります。しかし、抗骨吸収薬を適切に使用すれば、骨折や死亡のリスクを下げることができる可能性があります。ただし、現状では多くの患者が治療を受けておらず、治療の普及と継続が課題となっています。
今後は、患者が骨粗しょう症の治療の重要性を理解し、適切な治療を受けることができるような啓発活動が求められます。また、医療現場でも、患者のフォローアップを強化し、継続的な治療を促す取り組みが必要です。
参考文献
- Freyschuss B, Svensson MK, Cars T, Lindhagen L, Johansson H, Kindmark A. Real-World Effectiveness of Anti-Resorptive Treatment in Patients With Incident Fragility Fractures--The STORM Cohort--A Swedish Retrospective Observational Study. Journal of Bone and Mineral Research. 2022;37(4):649-659.
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