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重度の開放骨折をどう治療する?最新の「Masquelet法」とは

  • 重度の開放骨折をどう治療する?

    最新の「Masquelet法」とは

【開放骨折とは?その深刻さと影響】

開放骨折とは、骨が折れた際に皮膚が破れ、外部環境と直接つながってしまう状態を指します。これにより、細菌感染のリスクが高まり、適切な治療を行わなければ、骨が正しく回復しないだけでなく、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。

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特に、交通事故や高所からの転落などによる重度の開放骨折では、骨が大きく失われる「骨欠損(こつけっそん)」が生じることがあります。この場合、従来の治療法だけでは骨の再生が難しく、最悪の場合、患部の切断が必要になることもあります。そのため、新しい治療法が求められてきました。

【骨欠損の新たな解決策--Masquelet法とは?】

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近年、重度の開放骨折や骨欠損の治療法として注目されているのが「Masquelet法(マスケレ法)」です。この方法は、「誘導膜法(ゆうどうまくほう)」とも呼ばれ、フランスの整形外科医アルヌー・マスケレ氏が開発しました。

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Masquelet法の流れ

  1. 第一段階(人工膜の形成) 骨欠損部分に抗生物質を含んだ「骨セメント」を充填し、その周囲に特殊な膜(誘導膜)を作らせます。この膜は、骨が再生しやすい環境を整える役割を果たします。
  2. 第二段階(骨移植) 6〜14週間後、誘導膜が完成したタイミングで、骨セメントを除去し、患者自身の骨(腸骨などから採取)を移植します。移植した骨は、誘導膜によって保護され、血流が促進されることで、徐々に骨として再生していきます。

この方法の最大のメリットは、「骨の大きさに関係なく再生が可能」という点です。従来の骨移植では、骨の欠損が大きすぎると再生が困難でしたが、Masquelet法では数センチ以上の骨欠損にも対応できるため、多くの患者にとって希望の治療法となっています。

【開放骨折治療の未来--今後の展望と患者への影響】

Masquelet法は、現在多くの研究が進められており、その成功率は80〜90%と高い結果を示しています。特に、

  • 骨折後の感染リスクを減少させる
  • 骨移植の成功率を向上させる
  • 治療期間を短縮する といった点で、大きなメリットがあります。
  • 3Dプリンターマスカレ法.jpg

今後、3Dプリンター技術を活用した骨のカスタマイズ移植や、成長因子を活用したさらなる治療の進化が期待されています。また、骨の再生を助ける新たなバイオマテリアル(生体材料)も開発が進んでおり、より短期間で確実に骨が再生できるようになるかもしれません。

患者にとっては、Masquelet法が広まることで、「切断の回避」「早期の社会復帰」「生活の質の向上」といった大きな恩恵を受けることができます。

参考文献

  • Nikolaos K. Kanakaris et al. Modern Management of Severe Open Fractures of the Extremities: The Role of the Induced Membrane Technique. J Bone Joint Surg Am. 2025.

 

 

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