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女性アスリートのACL損傷リスク:膝の弛緩性や関節の柔軟性は本当に関係ある?
【女性アスリートのACL損傷:本当に関節の柔らかさがリスクなのか?】
スポーツに取り組む女性アスリートにとって、膝の前十字靭帯(ACL)の損傷は深刻な問題です。ACLは膝の安定性を保つ重要な靭帯で、切り返しやジャンプ時の着地などで大きな負荷がかかります。
これまで、「膝がゆるい」「関節が柔らかい」ことがACL損傷のリスクを高めると言われてきました。しかし、本当に関節の柔らかさや膝の動きのクセが影響しているのでしょうか?
最新の研究では、女性アスリート287名を4.5年間追跡し、関節の弛緩性(膝のゆるさ)、関節過可動性(極端な柔軟性)、大腿骨のねじれ(前捻角)、ハムストリングの伸びやすさ、足のアーチの落ち込み(舟状骨低下)がACL損傷と関連があるかを調べました。
その結果、意外なことにこれらの要因とACL損傷のリスクには明確な関連がないことがわかりました。では、ACL損傷のリスクはどこにあるのでしょうか?
【研究で明らかになった!ACL損傷と関節の関係】
この研究では、女性アスリート287名(13〜38歳)を対象に、バスケットボール、フロアボール(ヨーロッパで人気の室内ホッケー)、アイスホッケー、バレーボールの選手を長期間追跡しました。
参加者は膝の動きや関節の柔軟性について様々な検査を受け、その後4.5年間にわたりACL損傷の発生を記録しました。
具体的に測定したのは以下の6つの要素です。
- 膝の弛緩性(前後の動きのゆるさ)
- 膝の過伸展(反りやすさ)
- 関節過可動性(関節が極端に柔らかいかどうか)
- 大腿骨の前捻角(股関節のねじれ)
- ハムストリングの伸展性(ももの裏の筋肉の柔軟性)
- 舟状骨低下(足のアーチの崩れ)
結果として、これらの要素とACL損傷の間に統計的に有意な関連は認められませんでした。
唯一、膝の弛緩性(前後方向の動き)が大きい選手の方がACL損傷をしやすい傾向がありましたが、その差は統計的に有意ではなく、決定的な要因とは言えないことがわかりました。
【それでもACL損傷を防ぐには?最新の予防戦略】
では、ACL損傷を防ぐにはどうすればよいのでしょうか?
研究結果からわかったのは、「関節の柔軟性や膝のゆるさだけがリスクではない」ということです。
✔ ACL損傷予防のために重要なポイント
✅ 筋力トレーニング
膝の安定性を高めるには、特に太ももの前(大腿四頭筋)と裏(ハムストリング)のバランスを整えることが重要です。スクワットやレッグプレスなどの筋トレを取り入れましょう。
✅ ジャンプや着地のトレーニング
ACL損傷の多くは、ジャンプの着地や急な方向転換で発生します。正しい姿勢で着地する技術を習得することで、膝への負担を減らせます。
✅ ウォームアップとストレッチ
試合や練習前に十分なウォームアップを行い、関節や筋肉を適切に動かしておくことも重要です。急な動きに対応できるよう、ダイナミックストレッチ(動的ストレッチ)を取り入れましょう。
✅ 正しいフォームの習得
スポーツ時の動き方を改善することも有効です。特に膝が内側に入るクセ(ニーイン)を修正するトレーニングが役立ちます。
【まとめ:関節の柔らかさよりも重要なのは筋力と動き方】
今回の研究では、膝の弛緩性や関節の柔らかさがACL損傷の主要なリスク因子ではないことがわかりました。
それよりも、筋力不足や不適切な動きが原因で膝に過剰な負担がかかり、結果的にACL損傷を引き起こしている可能性が高いのです。
つまり、ACL損傷を防ぐには、「関節の柔軟性を気にするよりも、正しいトレーニングとフォームを身につけること」が最も重要だと言えます。
スポーツを楽しみながら、膝のケガを防ぐために、今できる予防策をしっかり実践していきましょう!
【参考文献】
Pasanen K, Seppänen A, Leppänen M, Tokola K, Järvelä T, Vasankari T, et al.
Knee laxity, joint hypermobility, femoral anteversion, hamstring extensibility and navicular drop as risk factors for non-contact ACL injury in female athletes: A 4.5-year prospective cohort study.
Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2025;1-8. https://doi.org/10.1002/ksa.12625【11】
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