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股関節手術後に痛みが続く?知っておきたい腸腰筋インピンジメントの対処法
股関節手術後に痛みが続く?知っておきたい腸腰筋インピンジメントの対処法
【人工股関節手術後の痛み、原因と対策とは?】
人工股関節全置換術(THA)は、多くの人にとって生活の質を向上させる画期的な手術ですが、一部の患者さんは術後に股関節の痛みを感じることがあります。その原因の一つに「腸腰筋インピンジメント」があります。
腸腰筋とは、腰から太ももの前を通る筋肉で、股関節を曲げる動きに関与しています。この腱が人工股関節の一部とこすれたり圧迫されたりすると、炎症が起きて痛みが発生するのです。本記事では、この腸腰筋インピンジメントの原因・診断・治療法について詳しく解説します。
【腸腰筋インピンジメントの原因と症状】
腸腰筋インピンジメントは、主に以下の3つの要因によって引き起こされます。
① 人工関節の配置ミス
人工股関節の寛骨臼カップ(骨盤側の受け皿部分)が適切な位置に固定されていない場合、腸腰筋腱に干渉しやすくなります。特に、カップが大きすぎる場合や角度がズレていると、腱に過剰な圧力がかかり、炎症が発生します。
② 骨格の個人差
もともとの骨格や筋肉の付き方によって、腸腰筋が股関節に近い位置にある人もいます。この場合、人工股関節を入れた際に腱がこすれやすくなり、炎症を起こしやすくなります。
③ 術後の活動レベルの変化
手術後に急激に活動量を増やしたり、股関節に負担のかかる動作を繰り返したりすると、腸腰筋が過度に刺激されて痛みが出ることがあります。
【主な症状】
- 股関節の前面や鼠径部(そけいぶ)に痛みを感じる
- 椅子から立ち上がる、階段を上る、足を上げる動作で痛みが悪化
- 仰向けに寝た状態で足を持ち上げると痛みが生じる
【超音波診断と低侵襲手術で解決】
① 超音波ガイド下診断的注射
腸腰筋インピンジメントが疑われる場合、まず行われるのが「超音波ガイド下診断的注射」です。これは、超音波を使って腸腰筋の周囲に麻酔薬を注射し、痛みが軽減するかどうかを確認する方法です。これにより、痛みの原因が腸腰筋インピンジメントであるかどうかを特定できます。
② 保存療法(リハビリ・薬物療法)
診断が確定したら、まず保存療法が試されます。消炎鎮痛薬(NSAIDs)やストレッチを行い、腸腰筋の炎症を抑えます。また、股関節の負担を軽減するための理学療法(リハビリ)が推奨されます。
③ 関節鏡視下腸腰筋部分切除術(IFL)
保存療法で改善しない場合、「関節鏡視下腸腰筋部分切除術(IFL)」が選択されます。この手術では、小さな切開を加え、カメラを使って腸腰筋の一部を切除します。これにより、人工股関節との摩擦を減らし、痛みを改善します。
手術後の回復は比較的早く、多くの患者さんが術後数週間で痛みの軽減を実感できます。また、筋力の低下や股関節の動きの制限もほとんどありません。
【再手術を避けるためにできること】
① 適切なリハビリを行う
手術後は、医師や理学療法士の指導のもと、股関節に負担をかけすぎないようにリハビリを行いましょう。特に、股関節の柔軟性を高めるストレッチが重要です。
② 過度な負荷を避ける
術後すぐに激しい運動を行うと、腸腰筋に負担がかかり炎症を引き起こす可能性があります。日常生活の中でも、股関節に無理な負荷をかけないよう心がけましょう。
③ 定期的な診察を受ける
痛みが続く場合は、早めに専門医に相談しましょう。適切な診断と治療を受けることで、症状の悪化を防ぐことができます。
【まとめ】
人工股関節手術後の痛みは、適切な診断と治療で改善できる場合が多いです。特に、腸腰筋インピンジメントは、超音波ガイド下診断的注射で確定診断し、保存療法や低侵襲手術によって痛みを軽減できます。
「手術後に痛みが続く...」とお悩みの方は、ぜひ専門医に相談してみてください。適切な治療を受けることで、より快適な生活を取り戻せるでしょう。
引用文献 Sabetian PW. "Ultrasound-guided Diagnostic Injections, as well as Arthroscopic Iliopsoas Fractional Lengthening May Alleviate Post-Total Hip Arthroplasty Pain, Avoid Unnecessary Revision Arthroplasty, and Improve Patients' Prognosis." Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery. 2025. doi:10.1016/j.arthro.2025.01.032.
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