成尾整形外科病院

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変形性膝関節症のO脚・X脚矯正手術、成功のカギはくさび角!手術計画の新常識

 

 


【膝のO脚・X脚矯正手術、成功のカギは「くさび角」!】

膝痛の女性.JPG

膝の痛みが気になる方や、O脚・X脚の矯正手術を検討している方にとって、「骨切り術(こつきりじゅつ)」は有力な治療法のひとつです。膝関節の負担を軽減し、将来的な人工関節手術を回避できる可能性があるため、多くの専門医が勧めています。

しかし、骨切り術を成功させるためには、手術前の「計画」が重要です。特に、どのように骨を切るか(骨切りの角度や高さ)は、術後の膝の安定性や負担に大きく影響します。

最新の研究では、従来重視されていた「くさびの高さ」よりも、「くさびの角度」を正しく計算することが、手術の精度向上につながることが明らかになりました。この記事では、その詳細をわかりやすく解説します。


【骨切り術とは?O脚・X脚の矯正に欠かせない手術】

骨切り術(オステオトミー)は、膝の変形性関節症(O脚やX脚)に対して行われる手術です。特に、**高位脛骨骨切り術(HTO)遠位大腿骨骨切り術(DFO)**という2つの方法がよく用いられます。

  • HTO(高位脛骨骨切り術):膝の内側に負担がかかるO脚の人向け。脛(すね)の骨をV字型に切り、骨を開いて矯正する。
  • DFO(遠位大腿骨骨切り術):膝の外側に負担がかかるX脚の人向け。太ももの骨を切って角度を調整する。

これらの手術では、「どのくらいの角度で骨を開くか」が術後の膝のバランスを決める大事なポイントになります。


【「くさびの高さ」よりも「角度」が大切!最新研究の発見】

これまで、骨切り術の計画では「くさびの高さ(骨を開く幅)」を基準にすることが一般的でした。しかし、最新の研究では、「くさびの角度(開く角度)」の方がより重要であることが明らかになっています【5】。

この研究では、40人の患者の膝X線画像を用い、960通りのシミュレーションを実施。その結果、「くさびの角度」はほぼ一定に保たれるのに対し、「くさびの高さ」は手術中の微妙な変化で大きく変動することがわかりました。

これは、手術中に骨を切る位置や開くポイント(ヒンジの位置)が少し変わるだけで、「くさびの高さ」が変わってしまうためです。しかし、「くさびの角度」はこれらの影響を受けにくく、術後のアライメント(骨の並び)をより正確に予測できます。


【手術計画の新常識!正しい「くさび角」の決め方】

HTOとDFO.JPG

今回の研究では、手術の際に「くさびの角度」を重視することで、より正確な矯正が可能であることが示されました。それでは、具体的にどのように計画すればよいのでしょうか?

  1. 手術前のX線画像を用いたデジタルシミュレーション
    事前にデジタルシミュレーションを行い、「どの角度で骨を開けば理想的な膝のバランスになるか」を計算します。
  2. 「くさびの角度」と「骨の厚み」から高さを算出
    角度が決まれば、開くべき高さ(くさびの高さ)も自動的に決まります。具体的な計算式は以下の通りです。
    くさびの高さ = 2 ×(sin(くさび角 ÷ 2) × 骨の厚み)
  3. 手術中の調整に備え、術中測定を実施
    もし手術中に微妙なずれが生じた場合、骨の厚みを測定し直し、正しい高さを計算しなおすことで精度を上げることができます。

【骨切り術の未来:AIや3D技術の活用】

近年では、AI(人工知能)を活用した手術計画や、3Dプリンターを用いた患者ごとのカスタムガイドが登場し、より精密な手術が可能になってきています。

また、ナビゲーション技術やロボット支援手術を活用することで、事前に計画した「くさび角」に忠実な骨切りが可能となり、さらに精度が向上することが期待されています。


【まとめ】

今回の研究から、「くさびの高さ」よりも「くさびの角度」を重視することが、より正確な膝の矯正につながることがわかりました。骨切り術を受ける予定の方は、事前に担当医と相談し、「どのような手術計画を立てるのか」を確認するとよいでしょう。

また、手術の精度を高めるためには、デジタルシミュレーションの活用や、AI・3D技術の進化にも注目が集まっています。今後の技術発展により、より安全で確実な膝矯正が可能になるでしょう。

引用論文
Watrinet J, Schlaich J, Vieider R, et al. Measuring osteotomy wedge angle is more important than measuring wedge height in open wedge osteotomies around the knee in preoperative planning. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2025. doi:10.1002/ksa.12609【5】

 

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