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トミー・ジョン手術 vs 新たなUCL修復法:プロ野球選手の選択肢
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トミー・ジョン手術 vs 新たなUCL修復法:プロ野球選手の選択肢
【プロ野球選手を悩ませるUCL損傷とは?】
野球選手、とくにピッチャーに多い肘の靭帯損傷(UCL損傷)は、キャリアを左右する重大な問題です。これまで「トミー・ジョン手術」として知られる靭帯再建術が一般的でしたが、復帰までに12〜16か月ものリハビリが必要でした。
最近、新たな選択肢として注目されているのが「UCL修復術(リペア手術)」です。この方法は、損傷した靭帯を補強しながら修復するもので、復帰期間を大幅に短縮できる可能性があります。本記事では、最新の研究結果をもとにこの手術の効果や適応について解説します。
内側側副靭帯(UCL)とは?
UCLは肘の内側に位置し、前腕と上腕を結ぶ靭帯です。肘を安定させ、特に投球動作や力を加える動作において重要な役割を果たします。投球や繰り返しの負荷が原因で、この靭帯に損傷や断裂が生じることがあります。
UCL修復術とは?
UCL修復術は、損傷した靭帯を補強して治療する手術です。この手術では、損傷部位を縫合し、「内部ブレース」と呼ばれる補強材を使用することで、靭帯の機能を強化します。内部ブレースは、人工的な構造を用いて靭帯をサポートし、手術後の安定性を高める技術です。
手術の特徴と手順
- 靭帯の損傷が部分的または靭帯全体が健康である場合に適応されます。
- 完全断裂や重度の劣化が見られる場合は、再建術(トミー・ジョン手術)が選ばれることがあります。
- 皮膚切開: 肘の内側に切開を加えて損傷部位を露出します。
- 靭帯の修復: 靭帯を縫合して損傷を修復します。
- 内部ブレースの挿入: 高強度の合成材で靭帯を補強します。これにより、手術後の早期負荷が可能になります。
- 手術後は約6週間の固定を行い、徐々にリハビリを開始します。
- 投球や高負荷の運動への復帰は通常、9〜12か月後とされています。
UCL修復術と再建術(トミー・ジョン手術)の違い
特徴 |
修復術 |
再建術 |
適応症例 |
部分断裂、靭帯の質が良好な場合 |
完全断裂、大規模な損傷 |
手術方法 |
縫合と内部ブレースを使用 |
腱を移植して靭帯を再建 |
復帰までの期間 |
約9〜12か月 |
12〜16か月 |
負担の程度 |
軽度 |
高度 |
【UCL修復術の効果と適応条件】
研究によれば、UCL修復術を受けたプロ野球選手の多くが、以前と同じレベルでプレーに復帰できることが示されました。以下が主な結果です:
- 復帰期間の短縮
MLB選手は平均9.55か月、MiLB選手は17.5か月で復帰。トミー・ジョン手術と比べると大幅に短縮されています。- 投球成績の維持
- 投球速度やスピン率などのパフォーマンス指標は、術前とほぼ同等。また、試合出場数やイニング数も回復しました。
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術後の防御率の変化
1. 術後の成績は術前と同等か僅かに改善
- 多くの研究では、術後の防御率が術前と同等、または改善する例が報告されています。これは、手術による肘の安定性向上や痛みの軽減が、投球の正確性やスピードを回復させるためと考えられます。
- 一部のMLB投手では、術前と比較して防御率が0.5〜1.0ポイント改善した例もあります。
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打撃成績の維持
研究によれば、UCL術後の打撃成績は術前と比較して大きな低下は見られないことが多いです。打率、出塁率、長打率といった主要な打撃指標は、復帰後も術前と同等の水準を維持する傾向があります。
- 適応条件
靭帯の質が良好で、損傷が局所的な場合に最適な方法とされています。ただし、重度の損傷や再手術が必要な場合には適さない可能性があります。
【選手や医師が知っておくべきポイント】
では、UCL修復術を選択する際のポイントを見ていきましょう。
- リハビリの短縮効果
従来のトミー・ジョン手術よりリハビリ期間が短いため、選手のキャリアにとって大きな利点があります。 - 適切な症例選択が重要
靭帯の状態や損傷の種類に応じて、適応が慎重に判断される必要があります。 - 長期的なデータの不足
修復術に関する長期的な結果を示す研究はまだ少なく、さらなる検証が求められます。
引用論文
Ajith Malige, Carlos Uquillas. "Ulnar collateral ligament repair in professional baseball players." Clin Shoulder Elbow 2024;27(3):278-285. https://doi.org/10.5397/cise.2023.01109
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