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成人脊椎変形に挑む!短い固定術で可能な改善とは?
成人脊椎変形における短縮固定術の可能性
高齢化社会の進展に伴い、脊椎変形を患う患者が増えています。特に、腰椎(ようつい)の変形が原因で立ったり歩いたりするのが困難になるケースが多く見られます。この記事では、成人脊椎変形(ASD)に対して行われる短縮固定術(short fusion)について、その特徴と治療効果を分かりやすく解説します。
【短縮固定術とは?その背景を理解しよう】
成人脊椎変形とは、背骨が正常な形を失い、痛みや日常生活の制限を引き起こす状態を指します。特に、加齢による腰椎の変形や椎間板の劣化が原因となることが多いです。
従来の治療法では、背骨全体を支える「長い固定術」(第9胸椎から骨盤まで)で理想とするアライメントへ矯正固定術が一般的でした。しかし、この手術には大きな切開や長時間の手術が必要で、患者への負担が大きい点が課題でした。一方で、短縮固定術は少ない固定範囲で変形を矯正する方法で、患者の体への負担を軽減できる可能性があります。
短縮固定術では、平均3.5個の椎骨を固定することで、脊椎の可動性をある程度保持しながら変形を矯正します。このアプローチにより、手術後も自然な動きを保ちやすくなることが期待されています。
【症例】70歳代の女性です。椎体骨折を契機に立位保持が困難となり、筋疲労性腰痛でたっていることができなくなりました。
【短縮固定術の効果と患者へのメリット】
短縮固定術を受けた患者37名のデータを2年間追跡調査した結果、以下のような効果が確認されました。
- 痛みの軽減:手術前に50.7%だったOswestry Disability Index(ODI)という痛みや生活への影響を示すスコアが、手術後には24.1%まで大幅に改善しました。
- 姿勢の改善:腰椎の前弯角(ぜんわんかく)が平均12.9度から32.2度に改善され、背骨全体のバランスが向上しました。
- 負担の軽減:手術範囲が短いため、血液の損失量や手術時間が抑えられることが確認されています。
これらの結果から、特に骨盤の角度を示す「骨盤傾斜角(PI)」が47度以下の患者では、短縮固定術が良好な結果をもたらすことが分かりました。
【注意点と今後の課題】
短縮固定術にはいくつかの注意点があります。
- 骨粗しょう症の影響:骨密度が低い患者では、固定箇所にかかる負担が増し、術後の合併症リスクが高まることがあります。
- 近位椎間の問題:固定範囲が短い場合、固定した部分のすぐ上の椎骨に過度な負担がかかり、変形が進行する可能性があります。
- 患者選定の重要性:この術式が適応するのは、比較的軽度な脊椎変形の患者に限られるため、事前の診断が重要です。
また、この治療法はまだ比較的新しいため、さらなる長期的な追跡調査や、多施設での研究が必要です。
【まとめ】
短縮固定術は、成人脊椎変形の新たな治療アプローチとして注目されています。少ない固定範囲で患者の痛みを軽減し、日常生活の質を向上させる可能性があるため、従来の治療法に代わる有力な選択肢といえるでしょう。
ただし、この手術が適応するかどうかは患者の状態によります。骨盤傾斜角や骨密度、全体的な健康状態を総合的に評価し、専門医と相談して最適な治療法を選びましょう。
引用文献
Moridaira H, et al. Can we use shorter constructs while maintaining satisfactory sagittal plane alignment for adult spinal deformity? J Neurosurg Spine. 2021;34:589-596. DOI:10.3171/2020.7.SPINE20917
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