成尾整形外科病院

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スポーツ選手に多い腰椎分離症とは?

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腰椎分離症は、特に若年層に多くみられる腰椎の疲労骨折であり、特に成長期の運動選手に多発します。この疾患は、腰椎の後方要素である椎弓の関節突起間部(pars interarticularis)が繰り返しストレスを受けることで微細な骨折が生じ、最終的に分離する状態です。腰椎分離症は一般に第5腰椎(L5)に最も多く発生します。(約90%)

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解剖学的要因

負荷の集中

第5腰椎は上体と骨盤の境目に位置し、上体の負荷が最も集中する部位です

。この位置関係により、第5腰椎には他の腰椎よりも大きな力学的ストレスがかかります。

脊椎の傾斜

第5腰椎は脊椎の傾斜が大きい部分にあたります。

この傾斜により、特に腰に負担がかかりやすくなっています。

生体力学的要因

回旋の制限

腰椎では椎間関節と椎体の関係から回旋が制限されています

。この制限により、回旋動作時に関節突起間部にストレスが集中しやすくなります。

反復動作の影響

腰を頻繁にそらすような動作を含むスポーツ(体操、サッカー、筋力トレーニングなど)では、第5腰椎に繰り返しの負荷がかかります。この反復動作が関節突起間部の疲労骨折の原因となります。

また第5腰椎は椎弓を栄養する分節動脈が欠損していることが多く、骨癒合しにくいことが発生しやすい要因の1つとされています。

疲労骨折であるため初期に診断がつくと骨癒合をめざした治療が可能です。

 

診断

1. 問診・視診

最初に、症状の有無や発症のきっかけ、日常生活やスポーツの状況などについて問診します。一般的に、腰椎分離症は後屈で腰痛を伴いますが、初期には無症状のこともあります。

2. 身体検査

診察では、腰部の痛みや可動域の制限を確認し、分離部位に圧痛があるかをチェックします。例えば腰を反らすと痛みが増すのが典型的な特徴です。

3. 画像検査

画像検査は腰椎分離症の確定診断に非常に重要です。以下のような方法があります。

  • X線検査:最も基本的な検査で、椎弓の分離や骨折を確認します。斜位で椎弓の形がスコッチテリア犬の首のような所見が観察され、分離部位を確認しやすくなります。ただしX線で診断できる典型的な分離症の多くは偽関節なった終末期像となります。
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  • CT検査:X線検査で分かりづらい場合初期に、CTで分離部位を認めることができます。
  • L5分離CT.JPG
  • MRI検査:椎間板や神経の状態、軟部組織も含めた詳細な情報を得ることができ、炎症の有無や脊髄への影響も確認できます。新鮮な骨折では、MRIで椎弓根に骨髄浮腫像炎症が見られ初期の分離症の診断が可能です。
  • L5分離MRI.JPG

 

治療法

治療は、以下の3つの段階に分けられます:

  1. 保存療法
    保存療法が一般的な初期治療となります。これには以下の方法が含まれます:
    • 休息と運動制限:症状が出ている間は運動を中止し、腰椎に負荷をかけないようにします。
    • 装具療法:コルセットなどで腰椎を安定させ、関節突起間部にかかるストレスを軽減します。
    • 理学療法:腰椎の柔軟性や筋力を強化するためのリハビリが行われます。腹筋や背筋を鍛えることで、腰部への負担を軽減する効果が期待されます。
    • 薬物療法:痛みがある場合は、鎮痛薬や消炎鎮痛薬(NSAIDs)が用いられます。
  2. 手術療法
    長期間の痛みや神経症状が改善しない場合、手術療法が選択されることがあります。代表的な手術法には次のようなものがあります:
    • 分離部修復術:分離部が偽関節となり腰痛が継続している場合に分離部修復で分離部の骨癒合を目指します。最近では経皮的椎弓根を用いた低侵襲手術が普及してきています。
    • 当院でもsmiley face rod法といわれる、経皮的椎弓根スクリューを用いた手術を行っています。
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    • 椎体間固定術:分離部が偽関節となり、分離すべり症や椎間板変性が進行し椎間孔狭窄によって神経症状を呈した場合に適応となります。中高年になって神経症状を呈することが多いです。
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  1. 腰椎分離症の治療法は、患者の年齢、症状の重さ、分離の程度によって異なりますが、早期の適切な治療により症状が改善し、日常生活に復帰することが可能です。また、再発や進行を防ぐためには、正しい姿勢や運動指導も重要です。発育期の腰痛が出現した場合は分離症の疑いがありますので、整形外科専門医を一度受診することをお勧めします。
  2. 分離症が偽関節となっても運動、スポーツをあきらめる必要はありません。腰椎分離症は、プロ野球選手においても罹病率は高く、早稲田大学スポーツ科学学術院の鳥居俊教授によれば、プロ野球選手の約4割が腰椎分離症を患っているとされています。

 https://full-count.jp/2022/07/05/post1245302/

また、別の研究では、プロ野球選手の約3割が終末期分離を抱えていると報告されています。

https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.18885/JJS.0000001786

これらのデータから、プロ野球選手における腰椎分離症の罹患率は30%から40%程度と推定されます。

 

運動をしている小学生、中学生、高校生などで腰痛が継続する場合は腰椎分離症の疑いがありますので、整形外科専門医を一度受診することをお勧めします。

また分離症の診断をうけて腰痛が継続する方も整形外科で保存療法から手術療法まで相談されるのがよいです。

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