成尾整形外科病院

脊椎外科(腰・首・肩・手足)・関節外科(肘・膝・股関節)を中心とした整形外科専門病院

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骨粗鬆症性椎体骨折の鑑別 その2 多発性骨髄腫

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整形外科の外来には腰痛など痛みを主訴に受診される患者さんが多くいます。その中には骨折を生じて受診するケースも多いです。高齢者で多いのは、骨粗鬆症性椎体骨折です。骨粗鬆症によって骨がもろくなり、背骨が骨折し痛みが出現し受診されることが多いです。

多発性骨髄腫の症状はCARB

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 椎体骨折の中に、時折、違う疾患が紛れてくることがあります。その一つが多発性骨髄腫という、血液の「がん」の1つの疾患です。多発性骨髄腫は骨髄内の形質細胞ががん化する病気です。骨髄腫はMタンパクと呼ばれる異常な抗体を産生します。多発性骨髄腫は正常な骨髄細胞や骨を障害することで、高カルシウム血症(Calcium)、腎障害(Renal)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone)などを生じます。頭文字をとって、CRABと言われてます。カニですね~

 いままでに60歳代くらいで誘因なく椎体骨折を生じて、調べてみると多発性骨髄腫だった症例など、10例弱の多発性骨髄腫の患者さんを血液内科へ紹介して治療してもらった経験があります。年に1例程度は整形外科外来に紛れてくる疾患だと思います。

多発性骨髄腫の患者さんが最初に受診するのは整形外科が最多!!

文献によりますと、多発性骨髄腫の患者さんが最初に受診した科は整形外科が最多で44.9%と最多で、内科よりも多かったとのことです。整形外科を受診した34.3%は診断遅延を認めたと報告されております。

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多発性骨髄腫の診断における整形外科医の役割 より

症状としては53.3%が体の痛みなど整形外科的な症状が最も多く、体の痛みの中でも腰痛が一番の高頻度でした。骨折を認めた症例の80.8%が脊椎の骨折であったと報告されております。

多発性骨髄腫の患者さんは整形外科外来を最も多く受診されるため、我々専門医はいち早く、診断し、血液内科の先生へ早く治療介入してもらうよう務める必要があります。

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多発性骨髄腫の診断における整形外科医の役割 多田広志ら J.Spine Res.11:908-911,2020

整形外科医が多発性骨髄腫の診断するポイントは?

多発性骨髄腫の病的骨折での椎体骨折は、骨粗鬆症性椎体骨折と鑑別することは困難です。肺がんなど固形がんは椎弓根までの骨溶解所見などがあり鑑別することはできますが、多発性骨髄腫の椎体骨折は脆弱性骨折と同じ所見で腫瘍性病変もありませんので鑑別困難です。見分けるためには採血検査しかないと思います。さきほどのCRABの症状ですが、すべてを呈する典型的な症例は少ないです。見分けるためのキーポイントはタンパク、アルブミン乖離です。高齢者では通常タンパクが上昇することはないですが、多発性骨髄腫によってタンパクは上昇するが、アルブミンは低いといった所見のタンパク/ある文民解離が診断ポイントなります。(A/G比も著明に低下します。)

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60歳代の患者さんで腰痛で体動困難で受診されました。椎体骨折を認めましたが、入院時検査で異常所見あり、多発性骨髄腫の診断となりました。

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~骨粗鬆症性椎体骨折に対する治療戦略について から~

経皮的椎体形成術を行い、早期に動けるようになり、血液内科へ治療を継続してもらった症例です。(痛みをとって、パフォーマンスステータス(PS)を上げないと化学療法の介入ができません。)

採血で気付かなかったら、骨粗鬆症性椎体骨折と誤診して、早期の治療介入を逃すところでした。

 我々整形外科専門医は整形外科領域だけではなく、整形外科的な症状を呈する疾患も鑑別して適切な診療科へ紹介する必要があります。

 

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